2011年2月26日(土)「しんぶん赤旗」

薬害イレッサ断罪

販売元に賠償命令

原告「国責任否定は不当」

大阪地裁


 肺がん治療薬の「イレッサ」の投与で819人の死亡者を出した薬害イレッサ事件で、大阪地裁(高橋文清裁判長)は25日、被告の輸入販売元アストラゼネカ社に約6000万円の損害賠償を命じる判決を出しました。


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(写真)薬害イレッサ大阪訴訟で勝訴の報告をする原告団・弁護団=25日、大阪地裁前

 裁判は、京都府や兵庫県などの遺族と被害者が肺がん治療薬「イレッサ」を投与されて重篤な間質性肺炎を起こして死亡したのは、製造物責任法などに違反していると訴えたものです。

 最大の争点は、2002年7月の発売時、医療機関向けの添付文書で副作用の注意喚起が十分だったかどうかでした。

 判決は「重大な副作用欄の最初に間質性肺炎を記載すべきであり、間質性肺炎が致死的な転帰(病状の変化)をたどる可能性があったことについて警告欄に記載を図るべきだった」と指摘、「注意喚起を図らないまま販売されたのは安全性を欠いたもので、製造物責任法の指示・警告上の欠陥があった」として、アストラゼネカ社に損害賠償を命じました。

 一方、国の責任については、「必ずしも万全な規制権限の行使であったとはいい難い」と批判したものの、「イレッサの有用性を認めることができ、輸入承認前後の安全性確保について国の対応に著しく合理性を欠くものとは認められない」と述べ、国の責任を免罪しました。

 薬害事件で製造物責任法の指示・警告上の欠陥を認めて違法としたのは初めてです。

歴史的意義

 薬害イレッサ訴訟原告団・弁護団は25日、声明を発表しました。

 抗がん剤の副作用についての注意喚起のあり方について、製薬企業の製造物責任上の責任を明確に認めた点において、判決は大きな歴史的意義がある。

 他方、判決は国の法的な責任を否定したが、アストラゼネカ社の責任で判断された事実関係は、ほとんどそのまま国にも当てはまるものであり、国の責任を否定したことは極めて不当である。

 指示・警告上の欠陥がある医薬品であるとされながら、これを指導監督する国に責任がないというのでは、国民の薬事行政に対する信頼を確保することはできない。

 判決は国についても「添付文書の重大な副作用欄に間質性肺炎を記載するよう行政指導をしたにとどまったことは、必ずしも万全な規制権限の行使であったとはいい難い」と断じており、裁判所は、アストラゼネカ社はもとより、国についても、未曽有の被害をもたらした薬害イレッサ事件の早期全面解決をはかる社会的な責任があることを指摘しているものである。

解説

原告側の主張認めるも一貫性に欠けた判決

 裁判では、製造物責任法に違反するかなどを争点に争われました。

 原告はイレッサには「通常有すべき安全性の欠如」があり、「設計上の欠陥」「適応拡大による欠陥」「指示・警告上の欠陥」があったとして損害賠償を求めました。

 判決は、「指示・警告上の欠陥」については認めたもののイレッサそのものの「有用性」については「有用性があった」こと、「設計上の欠陥」はなかったなどと判断したために一貫性に欠けた判決となりました。

 「指示・警告上の欠陥」とは、製造物の使い方や危険性について適切に情報が消費者に伝達されたのかが問われ、誇大広告や不正確な情報の伝達は「欠陥」にあたります。

 原告側は(1)「夢の新薬」などと宣伝して根拠のない期待を抱いて消費者・使用者が不適正・不必要に使用することになったこと(2)危険性に関する情報は、十分かつ具体的に指摘されなければならないのに「副作用の少ない新薬」などと宣伝した上、添付文書の副作用欄の4番目に記載されている――ことなどから情報提供のいずれにおいても不十分であり「欠陥」だと主張していました。

 判決は、原告側の主張を認めて、添付文書の重大な副作用欄の最初に間質性肺炎を記載していなかったこと、間質性肺炎が致死的な転帰となりえる可能性があることを警告欄に記載していなかったのは「指示・警告上の欠陥があった」と判断しました。(菅野尚夫)


 薬害イレッサ 再発と手術不能の肺がんに使われる経口治療薬のイレッサは、日本では2002年7月、約5カ月間のスピード審査で世界に先駆け承認されました。保険適用も認められましたが、発売直後から間質性肺炎などの急性肺障害による死亡報告が相次ぎ、昨年9月までに819人の患者が死亡する薬害をひきおこしました。





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