2011年2月13日(日)「しんぶん赤旗」

なにが問われる―障害者基本法改正

今国会に提出


 障害者基本法の改正案が今国会に提出されます。14日にも、障害者施策のあり方について議論してきた「障がい者制度改革推進会議」に法案要綱が示される見込みです。基本法改正がなぜ求められているのか、改正で問われるものは―。(岩井亜紀、鎌塚由美)


条約の批准に必要

 障害者基本法の改正が求められているのは、2006年の国連総会で採択され、08年に発効した障害者権利条約批准のためです。

 「21世紀最初の人権条約」といわれる障害者権利条約は、すべての人に保障されるべき普遍的な人権と基本的自由を、障害のある人に差別なく完全に保障することを締約国に求めています。日本は07年に署名しましたが、批准はまだです。

 自公政権時代の09年、政府は一部の法の手直しで批准を狙いましたが、障害者団体は猛反発。障害者自立支援法の廃止を含め、条約批准にふさわしい国内法整備を求めました。

 障害者施策の基本となる理念や障害の定義などの基本事項を定めているのが障害者基本法です。権利条約の精神を基本法に反映させることは、条約を批准し、日本の障害者施策を国際水準に引き上げるために欠かせません。

障害者自身が論議

 障害者施策見直しの議論は、政府内に置かれた「障がい者制度改革推進会議」で昨年1月からすすめられてきました。委員24人のうち14人が障害者や家族です。こうした委員構成は障害者らの運動の反映です。

 障害者らは障害者自立支援法の反対運動をすすめ、同法は憲法違反だとする訴訟を全国で展開。その結果、政府は昨年1月、自立支援法違憲訴訟団と基本合意を結びました。

 基本合意で国は、▽速やかに応益負担制度を廃止し、遅くとも13年8月までに障害者自立支援法を廃止し新法を実施する▽新法制定に当たって、障害者の生活実態などにも配慮して、障害者の権利に関する議論を行う―などを約束しました。

 推進会議は、基本合意を踏まえ、障害者権利条約批准のための法制度の抜本的見直しを議論してきました。昨年6月の「第1次意見」では、国内法整備の基本的な考え方やスケジュールを示しました。障害者基本法の抜本改正法(11年)、障害者自立支援法に代わる障害者総合福祉法(12年)、障害者差別禁止法(13年)の各案を国会に提出すると閣議決定されました。

 改正によって障害者基本法は、障害者関係の国内法の「トップにある法律」(東俊裕障がい者制度改革推進会議担当室長)と位置づけられます。

 推進会議は昨年末、改正障害者基本法に盛り込むべき考え方を「第2次意見」としてまとめました。それをもとに法案がつくられることになっています。

「意見」反映がカギ

 推進会議の「第2次意見」は、「障害の有無にかかわらず地域社会で共に自立した生活を営むことが確保された」社会実現のために障害者基本法の見直しが行われるべきだとしています。

 また、すべての障害者が「基本的人権の享有主体」であり、その権利を実現するために「自立と社会参加を保障するための支援が必要」だとしています。

 何が障害かは社会環境によって決まるという視点を明らかにし、制度的支援を必要としながら対象外とされる障害者を出さないように、障害の定義の見直しと支援対象者の拡大などを求めています。

 障害者権利条約の批准に向け、「第2次意見」に基づく基本法の抜本改正を、すべての障害者団体が一致して求めています。

 3日に国会内で開かれた「国連障害者の権利条約推進議員連盟」の総会で、推進会議の議長を務める日本身体障害者団体連合会の小川榮一会長は「基本法改正の作業で、どう第2次意見を反映させるか」がカギだと強調。日本障害者協議会の藤井克徳常務理事は「私たちは特別な権利を求めているのではない。他の市民との平等を得たいだけだ」と訴え、当事者の声を踏まえ、超党派で批准に取り組むよう要望しました。

 全国の共同作業所などでつくる団体「きょうされん」の小野浩常任理事は「形式的な障害者権利条約の批准では何も変わらない。権利条約の水準にかなうかたちで国内法を整備し、批准することが重要だ」と指摘します。

自立支援法廃止を

 しかし、「第2次意見」が障害者基本法改正案にきちんと反映されるかには懸念がもたれています。

 「第2次意見」取りまとめの過程で厚生労働省は、障害者は「基本的人権の享有主体」と明記することについて「憲法にすでに明記されている。障害者についてのみ確認することはどうなのか」と抵抗を示しました。

 3日の推進議員連盟の総会では、外務省が権利条約批准は「既定の国内法で足りる」と説明。詰めかけた障害者団体の批判を受けました。

 ふさわしい国内法整備が求められるなか、障害者自立支援法廃止の必要性が改めて浮き彫りになっています。障害者が生きるために必要な支援を「利益」ととらえる障害者自立支援法は、必要な支援を受けることを権利とする権利条約と真っ向から対立するからです。

 権利条約の批准を実効あるものにするためにも、自立支援法は廃止しかありません。





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