2011年1月10日(月)「しんぶん赤旗」

イージス艦「あたご」裁判 証拠調べ終わる

自衛隊側の証言にほころび

衝突前に漁船視認 航跡図に欠陥


 千葉県房総半島沖で、海上自衛隊のイージス艦「あたご」が漁船「清徳丸」に衝突、沈没させ、漁師親子が死亡した事件は来月19日で3年を迎えます。同事件で、業務上過失致死罪などに問われている自衛官2人の公判(横浜地裁・秋山敬裁判長)は昨年末に証拠調べが終了。今月中の論告求刑、最終弁論を経て結審となり、3月にも判決が出ます。


 被告は衝突事故時の当直士官、長岩友久元水雷長・3佐(37)、後潟桂太郎元航海長・3佐(38)の2人。

 公判は16回開かれました。あたごと清徳丸の航跡の立証を中心に検察、被告(自衛隊)側双方の証人尋問、被告人質問が行われました。

 検察は、海上衝突予防法で漁船群を右に見るあたご側に回避義務がありながら、接近する清徳丸らの動きを正確に把握せず、衝突を防ぐ注意義務を怠り、漫然と航行を続けたことが原因と操船ミスをあげました。被告側は「衝突直前に清徳丸が右転、増速したのが原因」などとして無罪を主張しました。

 しかし衝突前にあたごで見張りに立った乗組員らの証言で被告側の証言は破たんします。

 検察、被告側の質問に乗組員は事件当日の午前3時30分ごろに、水平線付近と周辺に三つの白灯を見たと証言。衝突直前の午前4時6分に見張りに立った乗組員は右前方に三つの漁船と思われる白灯と赤灯を見たものの当直士官には報告しなかった、と証言しました。

 衝突直前のあたごが漁船を回避すべき避航船であることの立証です。

漁師は命がけ

 長岩被告は、午前4時の後潟被告との交代時にあたごの右前方に漁船群を確認しながら動静監視を十分にせず、見張り員や信号員に指示もせず、同船らを回避することなく進行しました。しかし同被告は公判で「自分の操船は百点満点ではないが、平均以上だ」と強弁しました。

 これには検察側証人として証言した独立行政法人「航海訓練所」の竹井義晴航海科長が、船舶の往来が激しい房総沖で自動操舵(そうだ)航行、しかも漁船群のなかを直進した操船について「(自動車の)スーパーカー感覚の操船だ。操船レベルは平均点以下だ」と批判しました。

 被告側代理人は「(清徳丸は)自動操舵で居眠りをしていたのではないか」など漁船の「暴走」を印象付ける質問を繰り返しました。証言に立った漁船の船長が「漁師は命がけだ。居眠りなどしない」「あたごがレーダーできちんと漁船を見ていれば衝突はなかった」と反論しました。

 一方、被告側が「清徳丸の右転と増速が原因」を立証するとしてもちだした宮田義憲元高等海難審判庁長官鑑定の航跡図の欠陥も暴露されました。

事故の原因は

 検察側証人として証言した海上保安庁横須賀海上保安本部警備救難課専門官は同鑑定について、「衝突時の清徳丸の速度24ノットは同船の速力限界を超えている」など合理性に欠ける恣意(しい)的な鑑定だと強調。被告代理人が検察側の航跡図との「誤差」を指摘したのに対し「衝突直前の航跡に至る問題を考えるべきだ。赤信号の交差点で右から車がきているとき、汽笛をならしながら相手によけろ、と(あたごが交差点に)突入したようなもの」と反論しました。

 公判を傍聴している海難事故に詳しい田川俊一弁護士は「問題は事故の主な原因がどちらにあるかだ。その点であたごの責任は動かない」としたうえで、こう指摘します。

 「被告側の清徳丸原因説には合理性がない。衝突直前にあたごに向かってスピードをあげる動機がない。被告側が『捏造(ねつぞう)』と強調する数字上の問題も海難事故ではありうる誤差の範囲内。陸上での秒単位で争う事故とは違う」





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