2010年11月27日(土)「しんぶん赤旗」
介護保険改悪案 在宅生活困難に
軽度者切り捨て鮮明
政府は介護保険制度を2012年度に大改悪する構想を打ち出しました。厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会が25日に利用者への給付削減と負担増を列挙した意見書をとりまとめたのを受け、民主党政権は来年の通常国会に法案を提出する意向です。意見書の内容が実行されたらどうなるのか―。
要支援者へのサービス
ボランティア任せ
今回打ち出された改悪構想は、「給付の重点化」の名で軽度者を保険給付の対象から外す“軽度者切り”の方向を鮮明にしました。
意見書は、要支援者を市町村の判断で介護保険サービスの対象から外し、市町村任せの「地域支援事業」に移す仕組みの検討を求めています。主婦などのボランティアも担い手に想定されています。今後の検討課題として軽度の要介護者を介護保険から外すこともあげています。
市町村の地域支援事業には介護保険財政から一定の財源が出ますが、それを超せば市町村の負担になります。
厚労省が先進事例と位置づける埼玉県和光市は、介護保険サービス対象外の高齢者に地域支援事業で生活援助を提供。健康運動、配食、送迎などのサービスも行っています。
しかし予算は約6千万円で、要支援者を地域支援事業に移せば、その予算の約半分を要支援者に使うことになります。現在行っている他の事業が圧迫され、「厳しい」と市の担当者は漏らします。
市町村によっては要支援者へのサービスが大後退しかねません。
「ものすごく不安」。名古屋市に住む女性(76)は頭や首から指先までが痛む頸肩腕(けいけんわん)症候群のため家事が困難です。要支援2で週2回、掃除・洗濯など生活援助を受けています。
「ヘルパーさんの援助がなくなったら夫が仕事をやめざるをえない。生きているのが辛くなります」
ヘルパーステーション・コスモス立川(東京都)のサービス提供責任者、橋由香里さんは「要介護認定では、認知症があって介護の必要な人まで『要支援』とされている。ボランティアでは対応できません」と心配します。「ヘルパーは高齢者の生活を支えながら、自分でできることが増えるようにコミュニケーションをとっています。その援助を取り上げたら重度化・重症化が進んでしまいます」
特養「相部屋にも入れない」
自己負担の倍増も
意見書は利用者への負担増も並べました。
年間所得200万円(年金収入320万円)以上の高齢者の利用料(現行は費用の1割)の2割負担への引き上げを強く打ち出しました。要支援者と軽度の要介護者の2割負担も今後の検討課題とされました。
「(年間所得200万円以上を)高所得といえるのか」(全国老人クラブ連合会・斉藤秀樹事務局長)と強い批判が出ています。
特別養護老人ホームなどの施設の相部屋の居住費を値上げ(月5000円を例示)することも求めています。
05年の法改悪で、施設の食費・居住費(光熱水費+室料)が保険給付から外され自己負担となりました。相部屋については光熱水費が自己負担とされ、室料(減価償却費)は保険給付の対象に残りました。今回、この部分も保険給付から外す方向です。
「(居住費が重く)個室に入れない低所得者が相部屋にも入れなくなる」(日本医師会・三上裕司常任理事)恐れがあります。
低所得者向けに施設の食費・居住費を軽減する給付(補足給付)の支給要件を厳しくし、資産や家族の負担能力まで問題にすることも打ち出しています。
介護保険の在宅サービスを使う前提となる利用計画(ケアプラン)の作成(現行無料)を有料化する案も示しました。ケアプランは毎月の作成が必要で、要介護者は月1000円、要支援者は月500円の負担とする案が示されました。「低所得者からケアマネジメントをひきはがす」「必要なサービスを削らざるを得ないことも考えられる」と強い反発を受けています。
民主 国費増の公約違反
意見書は、介護保険料の平均月5千円以上への値上げか、利用者への負担増・給付減かと、高齢者に新たな負担を強いる選択肢だけを示しています。その根底には、国費の増額は「困難」と切り捨てる立場があります。
民主党は昨年の総選挙で介護保険への国費投入を8000億円程度増やすと政権公約しており、まったくの公約違反です。
大企業・大資産家への過大な減税や軍事の浪費にメスを入れて財源を確保し、社会保障の拡充に向かうべきです。
意見書が示した負担増・給付減のメニュー
●要支援者を介護保険サービスの対象から外す
●年間所得200万円以上の人の利用料を2割に倍増
●施設の居住費を軽減する給付の支給要件に資産や家族の負担能力を追加
●施設の相部屋の居住費を月5000円値上げ
●ケアプランを有料化(要介護者は月1000円、要支援者は月500円)
●軽度者の利用料を2割に倍増
●軽度の要介護者を介護保険サービスの対象から外す
要支援と要介護 介護保険サービスを利用するための要介護認定を受けると、非該当(保険給付の対象外)、要支援1・2、要介護1〜5にランク分けされます。寝たきりなどで介護を必要とする人が「要介護」、日常生活に支援を必要とする人が「要支援」とされます。
地域支援事業 介護が必要になる前から介護予防のために身体機能向上や配食サービス、相談・指導などの事業を市町村がおこなうもの。介護保険の給付対象ではありませんが、財源は上限つきで介護保険財政から出ています。
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