2010年10月25日(月)「しんぶん赤旗」
後期医療「廃止」逆手に推進
国保「広域化」
厚労省 狙いは医療費削減
国民健康保険(国保)を市町村ごとの運営から都道府県ごとの運営に変える「広域化」。国保会計への市町村の税金繰り入れをやめさせ、保険料アップを招く動きです。厚生労働省は後期高齢者医療制度「廃止」の論議を「チャンス」と逆手にとり、国保の広域化を推進しようとしています。
厚労省の伊藤善典国保課長は7月16日、静岡市内で市町村の国保担当者を相手に講演し、「今回の高齢者医療制度改革は、市町村国保の広域化を進めるための大きなチャンスだ」と強調。「今回の機会をみすみす逃すべきではない。議論への参加を怠り、年末に発車するバスに乗り遅れると当分、そのバスは来ないだろう」と、市町村の意思統一を訴えました。(「国保新聞」8月1・10日付)
後期高齢者医療制度廃止は、昨年の総選挙の審判ではっきり示された国民の意思です。ところが民主党政権は廃止を先送りして後期高齢者医療制度に代わる「新制度」の議論を開始。「中間とりまとめ」で形を現した「新制度」案は国民の願いとは隔たっています。
75歳以上の高齢者は8割強が国保に入ります。しかし現役世代の国保を市町村が運営するのに対し、高齢者は都道府県単位にして別勘定にします。そのため高齢者の保険料は高齢化で急激に上がっていきます。高齢者の医療費の増加を、高齢者に保険料負担の痛みとして感じさせる後期高齢者医療制度の根幹を変えていません。
そればかりか、民主党政権が「新制度」を利用して進めようとしているのが国保の広域化です。75歳以上の人が入る都道府県単位の国保をステップにして、数年後に国保の全世代を都道府県単位に移す計画です。伊藤国保課長は「新たな高齢者医療制度は、国保の広域化につながるような見直しをするという考え方が打ち出されており、市町村国保の若人(現役世代)部分の広域化にも大きな推進力が働いている」と講演しています。
もともと国保の広域化は小泉・自公政権が打ち出したもの。狙いは医療費の削減です。
現在、国保を運営している全国の市町村は一般会計から国保会計へ年約3700億円を繰り入れており、医療費が増えても保険料の上昇を抑えています。国は広域化を機に一般会計からの繰り入れをなくし、高齢化や医療技術の進歩で医療費が増えれば保険料が際限なく上がる仕組みにして、国民を受診抑制に追い込もうと狙っています。
後期高齢者医療制度の運営を都道府県単位にしたのも、一般会計からの繰り入れをなくすためでした。当時の厚労省課長補佐は「保険者を市町村にすると、市町村は国保と同じく一般会計から繰り入れてしまう」とあけすけに語っていました。
国保の広域化は、高齢者を受診抑制に追い込む後期高齢者医療制度の仕組みを、国保に入る全世代に拡大する政策だといえます。(杉本恒如)