2010年9月30日(木)「しんぶん赤旗」
主張
国保「広域化」
国庫負担を復元しない限り
市町村が運営する国民健康保険について厚生労働省は、全年齢を対象に期限を決めて、全国一律で都道府県単位に「広域化」する方針を明らかにしました。後期高齢者医療制度の後継制度を議論している「高齢者医療制度改革会議」で27日に提示しました。
厚労省は国保広域化に当たって、保険料の算定方法を法令で定め、「都道府県単位の運営主体において、一般会計からの繰入れを行う必要は生じない仕組みとする」としています。
ねらいは医療費削減
多くの市町村は住民の保険料負担を軽減するために一般会計から財源を繰り入れています。厚労省は標準保険料率を都道府県単位で決めてしまうことによって、「都道府県単位の運営主体」(どこにするかは検討中)も市町村も一般会計の繰り入れをしない制度設計にするとしています。
繰り入れをなくせば、医療費の増加が保険料の値上げに直結し、国保料(税)がいっそう高騰することは明らかです。
広域化する理由として厚労省は「安定的な財政運営ができる規模が必要」などとしています。しかし、事実上の広域国保といえる政令市の横浜、大阪、札幌など大規模自治体ほど財政難はひどくなっています。一般会計からの繰り入れを除けば、ほとんどの市町村が赤字であり、財政難の国保を寄せ集めても財政が改善する見込みはありません。広域化が保険料値上げと給付抑制の押し付け、住民の声が届かない組織運営につながることも後期高齢者医療制度の「広域連合」で証明されています。
都道府県単位の保険者づくりは民主党が掲げる「医療保険の一元化」とともに、もともと小泉・自公政権が医療構造改革の骨格として打ち出したものです。住民に対する市町村の負担軽減をやめさせ、国民に保険料引き上げか受診抑制かを迫って医療費削減を図ることが狙いです。住民の命と健康を守る社会保障制度としての公的医療保険を破壊する路線です。
広域化は「地域医療保険」として医療保険を「一元化」する布石です。被用者保険と国保を統合する一元化で事業主負担が削減・廃止されれば、その穴埋めのための労働者の保険料値上げや消費税増税で国民の負担はさらに増大します。
多くの低所得者が加入する国保は手厚い国庫負担なしには成り立ちません。にもかかわらず、国は国保財政への国庫支出金の割合を1980年代の約50%から25%へ半減させてきました。これを是正して国庫負担を計画的に復元していくと同時に、高すぎる国保料をだれもが払える水準に引き下げていくことが求められます。
世論と運動広げよう
厚労省が検討している新たな高齢者医療制度は、75歳以上の高齢者の8割を別建ての国保制度に囲い込みます。保険料引き上げか病院に行くのをがまんするかを高齢者に迫る現行制度の最悪の根幹を引き継ぐ制度です。
厚労省は年末までに新たな高齢者医療制度の最終案をとりまとめて来年の通常国会に提出し、その中に国保広域化の期日も明記する方針です。後期高齢者医療制度の速やかな廃止とともに、国庫負担の復元で国保を立て直し、公的医療を守る世論と運動を大きく広げていこうではありませんか。