2010年9月20日(月)「しんぶん赤旗」

介護療養病床 全廃計画 とん挫

“予定通りは困難” 厚労省側認める

存続求める住民 廃止方針の撤回を


 長期の療養を必要とする患者が入院する介護療養病床を2011年度末までに全廃するという国の計画が、破たんに追い込まれました。長妻昭前厚労相は予定通りの廃止は「困難」と認め、廃止を決めた法律の「改正が必要」(8日、衆院厚労委員会)と表明。国民の反発で計画が進まない現状を追認せざるをえなくなったものです。(杉本恒如)


 療養病床削減の方針を決めたのは自公政権です。11年度末までに医療療養病床(医療保険適用)を25万床から22万床程度に減らし、介護療養病床(介護保険適用)を13万床からゼロにする計画です。

 政権についた民主党も「基本的に(介護療養病床)廃止という方向性は変わりません」(1月27日、参院予算委員会で長妻氏)と表明して怒りを呼びました。しかし結局、計画を強行できなくなったのです。

 医療費削減のために長期療養を減らそうと狙う国は、介護療養病床には医療の必要性が低い「社会的入院」の患者が多いと主張。廃止して介護施設に転換する計画の根拠としました。医療現場からは「それは虚構だ」と批判が噴き出しました。

 介護療養型医療施設の存続を求める会事務局長の吉岡充さん(東京・上川病院理事長)は言います。「介護療養病床の患者は複数の病気を抱え、悪化する事態も起きる。医療を24時間確保しなければ対応しきれません」

 介護療養病床の転換先とされる介護施設の中で、最も医療の手厚い介護療養型老人保健施設(転換型老健)でさえ、医師は介護療養病床の3分の1しかいません。同会は介護療養病床全廃で5万人以上の「医療・介護難民」が生まれると指摘。存続を求めて署名活動を展開しました。こうした世論と運動が全国を覆った結果、転換は国の思惑通りには進みませんでした。

 現在、介護療養病床は約8万7千床に減っています。厚労省の調査(1・4月)では、介護療養病床から他の施設に転換した約2万1千床のうち、介護施設への転換はわずか約1千床。約1万8千床は逆に、医療のより手厚い医療療養病床に転換していました。

 長妻氏は「本来の行政の意図とは異なるような状況」と認めざるをえませんでした。

 さらに、今後の転換先に介護施設をあげたのもたった1割。6割は「未定」でした。理由は「(療養病床への)ニーズが高い」47%、「懸念事項があるため転換できない」33%。「懸念事項」の46%は「転換すると十分な医療的ケアができない」でした。

 「社会的入院だ」という国の言い分は、事実で覆されたのです。

 しかし、長妻氏は「猶予も含めて方針を決定していきたい」と廃止を先送りしただけ。医療療養病床の削減計画もそのままです。

 「大臣が代わってどうなるかも不明です」と吉岡さんは話します。「介護療養病床は医療と介護の両方を必要とする人、特に認知症の人にとって、不可欠の施設です。私は存続を訴え続けます」

 廃止の方針が撤回されなければ、患者は安心できません。

図

 療養病床 緊急の治療が必要な患者は一般病床に入院した後、回復期リハビリ病床での治療を経て、長期にわたり療養を必要とする場合に療養病床に移ります。入所者1人当たりの平均費用は、医療療養病床49万円、介護療養病床42万円、転換型老健37万円、従来型老健32万円(厚労省調べ)。療養病床攻撃の狙いは医療・介護費の削減です。





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