2010年7月30日(金)「しんぶん赤旗」
介護保険施設
個室面積基準引き下げ
厚労相諮問 社保審が了承
厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会は29日、介護施設の個室面積の最低基準を引き下げることについて長妻昭厚労相から諮問を受け、引き下げを了承しました。同省は9月にも関係省令を改定し、施行する方針です。
介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)の個室面積は同省の省令によって全国一律の最低基準が定められています。現在の最低基準は13・2平方メートル(約8畳)ですが、今回の改定で10・65平方メートル(約6畳半)に引き下げます。
同省は引き下げの理由について個室化を進めるためだと説明。基準を下げることで建設コストを削減し、待機者を減らすとともに、利用者の居住費負担を軽くするとしています。
同省は2014年度に特養ホーム全体の7割以上を個室にする方針です。
施設の居住費・食費は05年に全額自己負担とされました。
同省は、個室面積の縮小でコストが減る分をすべて居住費軽減に回した場合、特養ホームの個室の平均居住費は月6万7千円から2880円(約4%)下がるとの試算を示しました。
委員からは「説得力、魅力がない。あまりに拙速だ」「生活空間を狭くするのは人権の立場からいってもどうか」などの反対論も出されましたが、同分科会として基準引き下げを了承する答申を行いました。
解説
「人権・尊厳」に逆行する
厚生労働省は、「終(つい)の住みか」の側面がある特養ホームに4人部屋などの相部屋は不適切だと強調して、個室化を推進してきました。ところが今回、個室面積の最低基準(約8畳)を相部屋の1人分の面積(約6畳半)にまで引き下げようとしています。
「21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会」の広末利弥代表幹事は、「せっかく人権を守るためには個室化が必要と促進してきたのに、質を下げるのは逆行です。なじみの家具に囲まれて暮らすことは高齢者の切実な願いです。わずか6畳半の部屋に、洋服だんす、テレビなどを置いていったら、居住空間としてはいかにも狭い」と嘆きます。
個室面積の基準引き下げを答申した29日の社会保障審議会介護給付費分科会で、山井和則厚労政務官(民主党)は「厚労省は志を折ったのかと理解されるかもしれません」と発言。「自己負担が高くて低所得者が入りにくい問題」に対応して「人権、尊厳を守っていきたいという思いの中での引き下げ」だと弁解しました。
しかし、高い居住費のために施設への入所が困難なのは、民主・自民・公明の3党が2005年に介護保険法を改悪し、居住費・食費の全額自己負担化を強行したためです。入所の難しさが問題だというのなら、自ら行った法改悪を反省して全額自己負担を取り消し、元に戻すべきです。
特養ホームの待機者は42万人に上り、その解決は喫緊の課題となっています。本気で「待機者解消」をいうのなら、▽土地取得費に対する国庫補助制度を創設する▽国有地・公有地の活用を進める▽特養ホーム建設への国庫補助を復活させる―など、国の責任で建設を強力に推進すべきです。
そうした手だても尽くさずに高齢者を窮屈な部屋に詰め込むのでは、「人権、尊厳」の言葉が泣きます。(杉本恒如)
■関連キーワード