2010年7月14日(水)「しんぶん赤旗」
社会リポート
ポリオ 生 ワクチン被害
国は一刻も早く改善を
「これ以上、私たちと同じ苦しみをもつ親を増やしたくない」―。わが子がポリオ(急性灰白髄炎=小児まひ)の予防接種で感染した母親らは、生ワクチンから不活化ワクチンへ一刻も早く切り替えるよう求めています。(岩井亜紀)
滋賀県在住の渡辺千恵さん(38)=仮名=の次男(2)は、生後4カ月で生ワクチンの接種を受けました。2週間後に発熱。下痢、嘔吐(おうと)が2、3日続き、近くの小児科で風邪と診断されました。
さらに1週間後、右足からでん部にかけてまったく動かなくなりました。
整形外科を受診しましたが、原因がわかりません。ポリオの予防接種を受けたことを話したところ、医師は「予防接種でまひが起こるなんて聞いたことがない」と答えました。
半年後、渡辺さんは改めて、ポリオが原因か調べるよう依頼。翌月、やっとポリオの診断がつきました。「生まれたときは問題なかったんです。『健康に育つため』と受けた予防接種で子どもの足にまひが出たと思うと、悲しく、つらい」
欧米は“不活化”
長男(3)が生後6カ月のときに受けた予防接種でポリオに感染した北海道の青木優美さん=仮名=。「子どもがポリオになるまでは、決められたとおりに予防接種をすればいいと思っていました。今は、麻しん・風しんなどの生ワクチンは受けさせられません」と生ワクチンへの不信感を隠しません。
国内ではポリオが1960年に大流行。61年に旧ソ連とカナダからの生ワクチンの緊急輸入による予防接種が始まり、野生株ポリオウイルスによる患者は、80年の2人が最後となりました。
ところが、その予防接種によって現在も年間数人の患者が発生しています。
原因は、接種に使われる毒性を弱めたポリオの生ワクチンです。
生ワクチンは、流行時に感染の拡大を防ぐために効果的です。しかし、100万人に2人から4人はワクチンで感染してしまうと、WHO(世界保健機関)は公式に認めています。
日本では生ワクチンを使用していますが、欧米を中心に、ポリオを制圧した国は、不活化ワクチンを使用しています。このワクチンは毒性を除いてつくるため、生ワクチンで起きるまひなどの危険性がありません。
2月に国会内で開かれた、全国保険医団体連合会主催の予防接種学習会。独立行政法人「国立病院機構」三重病院の神谷齊(ひとし)名誉院長は「日本は、一日も早く不活化ワクチンに切り替えるべきだ。(安全性や効果を調べる)治験接種は始まっているが、ワクチンの切り替えがなかなか進まないことを危惧(きぐ)する」と強調しました。
署名活動を開始
本紙の取材に対し厚生労働省の担当者は「将来的には不活化ワクチンに切り替えていくが、製造はまだ見込まれていない」と話します。
ポリオ体験者や家族らでつくるポリオの会は5月、不活化ワクチンへの切り替えを求める署名活動をはじめました。
同会の小山万里子代表は訴えます。「せめて1年前、不活化ワクチンに切り替えられていたら、ポリオを発症せずにすんだ子どもたちが何人もいるのです。日本のワクチン状況を、一刻も早く改善してください」
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