2009年10月29日(木)「しんぶん赤旗」
日航問題 原因と責任は
空港乱造、経営を圧迫
日本航空の経営危機が大きな問題となっています。いったいなぜこんな事態になっているのか、原因と責任はどこに―。(深山直人)
“放漫経営”の声
日航の2009年4〜6月期の連結決算は990億円と過去最悪の赤字。来期も赤字が予想されるなかで、経営立て直しが迫られています。
こうしたなか新政権の前原誠司国土交通相は再建計画を策定する新たな専門家チームを発足させ、近く対策を出す計画です。
赤字の原因はどこにあるのでしょうか。決算をみると、本業以外の営業外利益や特別損失で巨額の赤字を出しているのが特徴です。
この間、36億5700万ドルにのぼるドルの長期先物買い(1ドル180円で購入)や、ホテル・リゾート開発の失敗、500億円を投入した本社ビルの売却、運航能力をこえた大型機の大量購入などが問題になってきました。「放漫経営」と指摘する声もあります。
ゆがむ航空行政
「地方空港が次々とつくられたり、国家間の約束による相次ぐ国際線の就航で、採算の取れない路線を引き受けてきたことや、着陸料など諸外国に比べて異常に高い公租公課など航空行政のゆがみが経営を圧迫している」
こう指摘するのは、航空労組連絡会の山口宏弥議長。
過大な需要予測にもとづいて次々と空港がつくられ、狭い国土にいまや空港は97カ所。その多くは赤字です。
この空港建設の資金となってきたのが、特別会計の「空港整備勘定」です。航空会社が払う空港使用料や着陸料などを財源にして、空港建設や維持運営費に充てられています。09年度は5280億円にのぼります。
そのため、諸外国に比べて日本の着陸料などは異常に高く、日本航空の負担は年間約1000億円。それが運賃に転嫁され、利用者の重い負担の原因にもなっているのです。
その典型が関西空港です。94年に開港し利用が低迷していたにもかかわらず、発着回数を16万回から23万回に上方修正し、2本目の滑走路まで建設しました。ところが、隣接する神戸空港の開港もあり、発着回数は12万回と低迷。有利子負債だけで1兆1000億円も抱えており、着陸料はソウルの1・8倍、シンガポールの3倍、ロンドンの6・4倍で航空経営の重い負担となっています。
前原大臣も「予算があるからと不採算空港をつくり、政治家や役所が日航に飛ばせと押し付けてきた。それが結果的に経営を悪化させた面があり、悪循環を断ち切らねばならない」(9月26日)といわざるをえません。
米国からの圧力
相次ぐ空港建設は、米国からの圧力も原因です。トヨタなど日本の輸出大企業が起こした貿易摩擦などを背景に米国は90年、日米構造協議で公共投資を日本に要求。これを受けて閣議決定されたのが、430兆円にのぼる公共投資基本計画でした。
日本航空もその一翼を担わされ、ジャンボ機を次々と購入。55機(07年)も抱えていますが、使われないままのジャンボ機は8機にものぼっています。それでも4年間で4000億円もの新機材購入計画をたてています。そしてそのほとんどが米国会社から購入することになっています。
規制緩和で競争
小泉内閣のもとで2000年から始まった経済的規制の緩和も見逃せません。
規制緩和で運賃と路線参入・撤退が自由化され、スカイマークなど低運賃会社が“ドル箱”路線に参入。さらに経営を圧迫されるようになりました。
前出の山口議長は「日航問題はゆがんだ航空行政の矛盾が噴き出したものであり、そこにメスをいれなければ本当の再建策にならない」と指摘します。
ところが、専門家チームからはゆがんだ航空行政の反省にたった対策はみえてきません。
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安全・公共性優先の再建策を
公的資金投入
資金繰り対策として3000円億円にものぼる公的資金の投入が検討されています。しかし、なぜそれだけの巨費がいるのかなど経営内容の全ぼうについて国民にはまったく明らかにされないまま一部の人間だけで検討が行われています。
しかも、賃金の後払いであり、退職後の生活の支えになっている年金の減額まで検討されています。すでに日航では恒久的な賃金の切り下げが行われており、生活が脅かされています。
必要な対策を取ることは当然ですが、原因と責任を明確にしないままの公的資金投入は国民の理解を得られるものではありません。
見逃せないのは、9000人もの人員削減が検討されていることです。航空会社での人員削減は安全に直接影響します。職場からは「10月から整備部門が子会社化されました。賃金は元日航社員の7割しかない。低賃金と長時間労働で安全が脅かされかねない」との声があがっています。
「人減らしなどコスト削減で労働者に犠牲を強いるリストラは、労働者のモチベーションも低下させ、安全に逆行する事態になりかねません」(山口議長)
航空行政正せ
航空労組連絡会は前原大臣に対して、(1)人員削減は安全に直接影響するものであり安全運航を基本とする(2)公共性を重視し、路線撤退は地元と十分に調整する(3)分裂・差別の労務政策の抜本的な改善―を求めています。
航空連との懇談で日本共産党の穀田恵二国対委員長は、「経営危機の原因と責任を明らかにすることが重要であり、公共性と安全性を第一にした再建策でなければならない」と表明。これまで政府がすすめてきたムダな空港建設を生む空港整備勘定の問題をはじめ規制緩和など航空行政のゆがみをただしていくことを強調しました。
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