文字の大きさ : [] [] []

2009年8月3日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

どう考える? 公共施設に企業・商品名

ネーミングライツ


 公共の施設に私企業名や商品名などをつける施設命名権、いわゆるネーミングライツが各地で進められています。最初はスポーツ施設が主でしたが、いまや音楽施設から公衆のトイレにまで広がっています。一方で、命名権を獲得した企業が不祥事を起こすなど反社会的な行動で契約を解除する事態も起こっています。このネーミングライツをどう見たらいいのか考えます。


宮下公園がナイキ公園!?

東京・渋谷区

 東京・渋谷区の一等地にある区立宮下公園。渋谷駅に隣接し、かつてはデモの発着地点や集会なども行われた場所。ここがいま、「ナイキ公園」に変わろうとしています。

◆有料の施設へ

 渋谷区がスポーツ関連企業「ナイキジャパン」と契約し、あらたにスケートボード場やクライミングウォールをつくって、いまのフットサル場とあわせてスポーツ公園化していく計画。すべて有料の施設で、9月にも工事を開始しようとしています。

 これにたいして同公園利用者などの間から「公共の施設を特定企業の宣伝の場にするのはいかがなものか」「無償で誰でも使えるはずの空間を、スポーツ関係の利用だけに限定するのはおかしい」と批判の声も上がっています。

◆区は推進姿勢

 計画を進める同区土木部公園課の小林稔係長は「維持管理や料金徴収は区がやる。新しい施設以外はこれまで通り24時間通り抜けもできるし、デモ、集会などの機能も変わらない」といいます。同区は渋谷公会堂を2006年から「C・C・Lemonホール」と変え、公衆便所にまでネーミングライツを導入する“先進”自治体。仮に契約企業が不祥事を起こした場合などはどう考えるのか。

 「どんな企業でもたたけば一つや二つボロはでてくるもんです。出してきた条件に合えばいいんです」(小林係長)と強気です。


公衆トイレ・道路・駅にまで

 ネーミングライツの導入でこれまでの名称を変更した主な公共施設をあげてみました(別表)。

 宮城県の県営宮城球場のネーミングライツは話題になりました。プロ野球東北楽天イーグルスの本拠地で、最初は人材派遣会社のフルキャストと契約して「フルキャストスタジアム宮城」と命名。しかしフルキャストが違法派遣で業務停止処分を受け、2007年8月に契約解除。そのあと製紙会社の「日本製紙」が引き継いだものの、同社も再生紙の古紙配合偽装を告発されました。そのため社名を削って「クリネックス」の商品名だけを冠しています。

 さらに同県では昨年4月、県民会館を「東京エレクトロンホール宮城」と名称を変えました。同施設を恒常的に利用しているある市民は「案内するときにいちいち元の県民会館、と書いたり案内しなければならず、ほんとに迷惑です」と怒ります。

 名古屋の市民会館は特定大学の名称をつけました。このため、同大学の関連施設と受けとめられたり、これまで入学式や卒業式に利用してきた他の大学が利用を見合わせる事態も起こっています。

 徳島県、愛媛県では県の主要施設に県内中核銀行の名称が冠され、まるで銀行所有のような印象です。

 県の施設に酒造メーカーの主要商品名を掲げたのが大分県です。県立総合センター利用の場合は、子どもも1回1回酒の名前を読み上げなければならない仕組みです。

 現在も、各地の自治体が必死に命名権の売り込みをおこなっています。公衆便所から、道路の特定区間、駅や電停前などの名前も売りますと、なりふりかまわぬ様相もあります。

 しかし貴重な税金を投入して建設され、歴史や伝統を刻み、親しまれてきた施設を、こうも簡単に企業宣伝の場にしてしまっていいものか。自治体財政のあり方を含めて議論されていい時期にきています。(金子義夫)

表

拡大図はこちら


尾林芳匡弁護士に聞く

安易で効果乏しい対応

 公の施設は住民の公平な利用に供するために公の財政によって設置するものですから、特定の大企業や商品の宣伝のために用いるのは、本来の役割とは異なる「ゆがみ」だと思います。

 広告媒体に提供することで財源を得ようとするのだと思いますが、体育施設等の維持管理費が地方自治体の予算の中で占める割合は、必ずしも大きなものではありません。少なくない地方自治体が財政難に陥っていますが、その原因は地方自治体によりさまざまです。国の交付税削減の影響を受けたところもありますし、政府に追随して必要性の乏しい道路やハコものを建設して財政難に陥っているところもあります。農林水産業や水源・環境の保全などで重要な役割を果たしている地方でも、国の政策によって税があまり入らない仕組みも問題です。

 最近の不況対策でも、政府の施策は給付金などその場限りのものが中心で、社会福祉等の生活関連産業や農林水産業を安定的に育成する支援策が不足しています。

 地方自治体の財政難への対応は、それぞれの具体的な財政難の原因を解明し、無駄な支出の削減や、地域住民に還元される経済・産業施策の工夫が基本とされるべきですし、根本的には国の産業政策や財政政策の転換を求めていくことが必要です。

 公の施設を特定の企業や商品の広告に用いることは、財政上の対応としても安易で効果が乏しいばかりか、施設の名前をはたして住民の総意で決めているのかという住民自治の点からも問題です。

 企業が消費者・労働者の保護や環境保全の上で問題や不祥事を起こした際には、PR役を務めてきた地方自治体の責任が問題となり得るというリスクもあります。

(おばやし・よしまさ 最近の著作に『新自治体民営化と公共サービスの質』『PFI神話の崩壊』=いずれも自治体研究社発行)


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp