2009年7月8日(水)「しんぶん赤旗」
海自の活動参加可能に
政府 貨物検査特措法案を提出
政府は7日、自衛隊の参加も可能とする「北朝鮮特定貨物の検査等に関する特別措置法案」(貨物検査特措法案)を閣議決定し、国会に提出しました。政府・与党は9日に審議入りする構えで、今国会での成立を目指しています。
同法案は、北朝鮮の核実験等に対する非軍事的制裁措置として、国連加盟国に自国領域内や公海での北朝鮮船舶の貨物検査を要請する安保理決議1874(6月採択)の「実効性を確保」することを口実にしています。
同決議が定める措置は、現行法に基づく対処が可能です。ところが法案は、自衛隊の参加を最初から目指すもので、緊張を激化させる危険もはらんでいます。
法案は、日本の領域・公海上での北朝鮮船舶などの貨物検査を、旗国の同意や船長の承諾を経て税関や海上保安庁が行うとしています。
焦点の自衛隊の参加については、海上保安庁のみでは対応できない「特別の事情がある場合」に、「海上における警備その他の所要の措置をとるものとする」としています。
自民、公明の「与党・北朝鮮の貨物検査に関するプロジェクト・チーム」のこれまでの説明によれば、自衛隊が貨物船の追尾を含む「情報収集」として公海上で活動でき、「特別の事情がある場合」には、自衛隊法82条に基づく海上警備行動で自衛隊が検査等に動員されるとしています。
「特別の事情」について与党PTは、(1)北朝鮮の貨物船が重武装している(2)海上自衛隊の方が貨物船の近くにいる―などを挙げています。法案は、自衛隊や海上保安庁の公海上での活動区域や他国との連携について制限を明示していません。
解説
貨物検査特措法案
現行法で対応できる
「北朝鮮特定貨物検査特措法案」(貨物検査特措法案)は、北朝鮮の核実験に対する非軍事的な制裁措置を定めた国連安保理決議1874の「実効性を確保」するためとして、「北朝鮮特定貨物」(核関連物質や武器など)の積載が疑われる船舶への、公海上での立ち入り検査を可能にするものです。
政府・与党は国会審議で民主党の協力を引き出すために、海上保安庁が立ち入り検査の主体であることを強調しています。同時に、法案第9条で、海保が対応できない「特別の事情」の場合、自衛隊が海上警備行動などの措置を取るとの規定を盛り込んでいます。
「特別の事情」とは何か。法案には明確な定義がなく、政府による恣意(しい)的な解釈を可能にしています。「情報収集活動」を名目として、平時から、海自護衛艦による北朝鮮船舶の追尾も想定されています。
法案を審議してきた与党プロジェクトチームでは、「(法案が成立しなければ)物資の検査もできないし、回航命令や物資の押収もできない。安保理決議が履行できない」(自民党・中谷元氏)との声が相次ぎました。しかし、公海上での立ち入り検査ができなければ決議1874の義務を履行できない、ということになるのでしょうか。
同決議が加盟国に明確に義務づけているのは武器の禁輸です。これに関して日本政府は、6月12日に決議1874が採択されたことを受け、同16日、ただちに「北朝鮮に向けたすべての品目の輸出を禁止する」との官房長官談話を発表しました。日本はすでに、独自の制裁措置として「北朝鮮の全船舶の入港禁止」「北朝鮮への輸出入の全面禁止」を実行しています。
一方、貨物検査は各国に対する「要請」であり、明確な義務ではありません。しかも、公海上での検査の場合、「旗国」の同意が必要です。領海での立ち入り検査についても、そもそも日本は北朝鮮船舶の入港を禁じていることから、現実には想定できません。
武器などを積載した疑いのある北朝鮮貨物船カンナム号がミャンマーに向かっていると報じられましたが、同国政府が禁止物品の入港を認めないと表明した後、進路を変更して引き返しました。米海軍首脳のラフェッド作戦部長は4日、記者会見で「安保理決議の効果が出ている」と述べています。
このように、各国が連携して武器禁輸措置を強めることが、北朝鮮の核開発を追い詰める有効な手段です。
前出の中谷氏は「国連決議に伴う立ち入り検査は海保が行うが、周辺事態になると(海自が)船舶検査を強制的にできる」と述べています。わざわざ特措法をつくって公海上での貨物検査を可能にするのは、自衛隊による軍事的な対応に道を開くためであるとの狙いを隠しません。
これでは、決議1874の義務を履行するどころか、「非軍事」での対応を前提とした同決議に反することになります。(竹下岳)
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