2009年5月18日(月)「しんぶん赤旗」

“保育所抑制 自治体認可制に原因”

厚労省主張に疑問続出

担当者「違和感ある」

本紙が全都道府県・政令市調査


 保育制度の大幅な改変を狙う厚生労働省は十九日、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の少子化対策特別部会を再開し、新制度の詳細の検討に入ろうとしています。しかし、同省が制度改変の理由の一つとしている「都道府県に保育所認可の裁量権を認めているから保育所が増えない」との主張には明確な根拠のないことが、本紙の調べで分かりました。


 少子化対策特別部会が二月にまとめた第一次報告は、「現行の保育制度の課題」の一つに「都道府県に、認可の可否の判断に対する幅広い裁量が認められ…待機児童がいる市町村で、かつ、客観的な基準を満たしている事業者からの申請であったとしても…必ずしも認可されない」ことを挙げています。

 実際にそうしたケースがどれくらいあるかとの本紙の問い合わせに、同省保育課は「つかんでいない」と答えました。

 本紙が四十七都道府県・十八政令市の保育所認可担当者に電話で聞き取りを行ったところ、ほぼ全員が「そうしたケースはない」と回答。「第一次報告の書き方には違和感がある」「実際にそんなケースがあるのか知りたい」など、疑問の声が多数上がりました。

 一方、「市町村が、財政難や将来の子どもの人口減を理由に保育所増設は難しいと考えているという話は聞いている」と話す県の担当者もいました。これは、地方の保育所予算の不足や、保育所の設置認可に当たっては将来の保育需要の推計などを踏まえることを定めた厚生省通知(二〇〇〇年三月三十日付)が保育所増設の抑制要因となっていることを示すものです。

 厚労省は第一次報告で、現行の都道府県による認可制度に代え、客観的な基準を満たせば参入自由とする指定事業者制を導入する方向を打ち出しました。聞き取りでは、指定制について、保育の質が低下する恐れなどが指摘されました。


保育予算の拡充こそ急務

改変で「制度崩壊しないか心配」

本紙全国調査で浮き彫り

 厚生労働省は「保育所を増やすためには、認可制には問題があり、指定事業者制にすべきだ」と、制度改変の必要性を主張します。しかし、認可保育所が増えないのは現行制度のせいなのか、指定事業者制でよくなるのか―。一面所報の本紙の全国の保育所認可担当者への聞き取り調査からは、認可保育所が増えない要因や指定事業者制への不安が浮かんできます。

増設を抑える

 保育所の認可権は都道府県にありますが、実際は、保育の実施主体である市町村の意向に沿う形で調整が行われています。市町村は、厚労省(当時は厚生省)の通知(「保育所の設置認可等について」)に従って、待機児童数や就学前の子どもの数、将来の保育需要推計などを勘案し、認可保育所を増設するかどうかを決めています。

 ところが厚労省は、二〇〇一年に待機児童の定義を改悪。認可保育所を希望したのに入れず、やむなく認可外保育所に通っている子どもを待機児童の数から外し、見かけ上、待機児が少なくなるようにしました。

 自治体の認可の裁量を問題視する厚労省ですが、同省の通知や待機児童数のごまかしが、市町村の認可保育所増設を抑える方向に働いている側面があります。国に、認可保育所を抜本的に増設する気があるのかが問われています。

国の予算半減

 現在の最大の問題は、国・地方の保育予算が極めて不十分なことです。国の保育所運営費予算が一般会計に占める割合は、一九七〇年代後半の0・8%から、〇八年度は0・4%に半減しています。

 さらに政府は、公立保育所の運営費補助を〇四年度に、施設整備費補助を〇六年度に一般財源化しました。多くの市町村が、財政難から、公立保育所の増設に消極的になっています。

 民間による新規開設も、現在の経済状況のもとでスムーズに進む状況にありません。

 厚労省自身、保育制度を変えても、サービスの量を保障するには裏付けとなる財源確保が不可欠だと認めています。保育所が増える確証もない制度改変に熱中するのでなく、予算拡充に取り組むことこそ必要です。

指定制に懸念

 本紙の全国の保育所認可担当者への聞き取りでは、指定事業者制にすることで「チェック機能が弱まらないか」「乳幼児の安全確保を十分踏まえた制度改正を考えてほしい」などの疑問や不安が多く聞かれました。

 昨年には、首都圏を中心に展開していた企業立の保育所が、本社の経営難から一斉に閉園する事態が起きました。「財務状況の審査を強化すべきだという声が強いなか、指定事業者制という話が出てくるのはよく分からない」との声もありました。

 県によっては、待機児よりも過疎化・少子化による保育所の定員割れが問題になっているところもあります。「多様な事業者の参入が見込めない地方では、保育の質・量が低下するのではないか」「都市部と地方とでは実情も違うのに、全国一律に指定制を導入するのか」と懸念を語る担当者もいました。

 直接契約や指定事業者制になったときの財政措置についての不安も出されました。ある担当者は「予算削減につなげていきやすい制度になるのでは。制度崩壊にならないか心配だ」と語りました。(坂井希、西沢亨子)



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