2009年3月23日(月)「しんぶん赤旗」
保育所に入れない
解決に何が必要か
保育所不足に各地で母親らの悲鳴が上がるなか、厚生労働省は保育を市場に任せる制度改変を狙っています。待機児問題の解決のためにいま何が必要なのか、制度改変は解決策になるのかを考えます。(坂井希)
待機5番目でも落選
「落選は予定外。今後が不安です」―東京都稲城市に住むパート社員の女性(32)は今春の保育所入所選考に漏れました。
三歳と一歳の子がいます。上の子は市立認可保育所に通って二年目。下の子を産休明けの昨年四月から認可外保育所に預け、働きながら認可園の空きを待っていました。昨年秋の時点では市から「五番目の待機者です」といわれ、四月には入れるものと思っていました。
しかし、今春の入所希望が予想を超えて膨らみ、落選。市に「困る」と訴えましたが、「フルタイムでも落ちた人がいる」といわれました。
認可外は保育料が高く、この一年、パート収入はすべて保育料に消えました。それでも「一度仕事を辞めたら再就職は難しい。認可に移れるまでの辛抱」と働き続けてきました。「もう一年待てば必ず認可に移れる保障もないし…」。女性はため息をつきます。「こんなに保育園に入りたい人がいるのに、なぜ何の対処もされないのか。この不満をどこにぶつけたらいいのでしょう」
予算減らし増設怠る
共働きの増加で保育需要は増え続けてきたのに、政府は保育所増設を怠ってきました。その責任は重大です。
保育所数は一九八〇年代をピークに九〇年代末まで減り続けてきました。「行革」の名で、保育所運営費への国庫負担を、八五年に八割から七割へ、八六年には五割へと削減したのが主な要因です。
二〇〇四年には小泉内閣が「三位一体改革」で公立保育所分の運営費を一般財源化。地方交付税が五兆円も削られるなか、日本保育協会の調査では調査対象の六割の市区が、保育所予算を減らしました(〇七年)。
世論に押され、政府は〇一年以降「待機児解消」を掲げます。しかし、定員以上の「詰め込み」やパート保育士の導入促進、規制緩和による民間参入などの安上がり策が中心。現在、定員以上に園児がいる保育所は公営で27・6%、私営で62・5%に上り、保育士の約半数(公営53・7%、私営39・4%)が非正規雇用です(〇八年、ベネッセ次世代育成研究所調査)。
国の責任で緊急策を
就業を希望する女性がすべて子どもを預けられるようにするには、政府の試算で百万人分の保育を新たに確保することが必要です。
当面、政府が緊急に保育需要を調査し、特別予算を確保して保育所建設を促進する必要があります。自治体任せにせず、国として整備計画を持ち、抜本的な保育所増設に踏み出すべきです。
自治体にも、可能な限りの対策が求められます。日本共産党東京都議団は、今春の全都の認可保育所入所申し込みが前年より一割以上も増えているとの独自調査を発表。中長期的に保育所を増やすのはもちろん、遊休公共施設の活用、閉園保育所の再開などで緊急に保育を確保するよう知事に申し入れました(三日)。
市場任せで解決せず
政府は「スピード感あるサービス量の抜本的拡充」のためとして、保育制度の改変を打ち出しました。新制度は、市町村の保育実施義務をなくし、市場に任せて営利企業などの参入を促すものです。
しかし、もうけが見込めなければ企業の参入は進みません。企業が参入しやすいよう設備や人員配置の基準を引き下げたり、保育士の待遇を悪くしたりすることになりかねません。民間頼みで数が増える保障はなく、仮に増えても安心して子どもを預けられないのでは困ります。
いま必要なのは制度いじりではありません。国と自治体の保育実施責任が明確な現行制度のもとで抜本的に予算を増やし、安心して預けられる保育所を増やすことこそ、親の願いに応える道です。
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グアム「移転」負担分で45万人分の新設が可能
日本は「世界第二位の経済大国」(麻生太郎首相)です。子ども・家族関係の予算を増やすことは、政府がやる気になればできます。たとえば、グアムへの米軍基地「移転」のために日本政府が負担する費用(約六千億円)があれば、九十人定員の保育所を五千カ所、四十五万人分新設できます(厚労省資料を元に試算)。
しかし、政府は少子化対策の財源を、もっぱら消費税増税に頼る姿勢です。これは日本経団連はじめ財界の要望でもあります。消費税は大企業には一円の負担もかかりません。
フランスは、GDP(国内総生産)比で日本の三倍以上の公費を子ども・家族関係に支出していますが、財源の約六割が事業主負担です。消費税増税しか選択肢がないかのような議論は、日本の財界の“自分たちは金を出すつもりはない”という身勝手な言い分を代弁しているのです。
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