2009年3月16日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPRESS
派遣切りノー 立ち上がる女性
派遣労働者を使い捨てにする企業の横暴に対して、自らの働く権利を守るたたかいが広がっています。「泣き寝入りはできない」と立ち上がった2人の若い女性の思いは――。(菅野尚夫)
未払い賃金を求め訴訟へ
東京のテレアポ
「私たちの労働実態は、蟹工船(の労働者)と同じです」
こう語るのは東京都内に住む小早川愛さん(29)=仮名=です。契約途中の昨年6月、常用雇用の派遣社員として勤めていた派遣会社から突然解雇を通告されました。
小早川さんは「就業中『いつ契約を打ち切りになるのか』とふるえながら遅刻、欠勤をせずに必死で働いてきました」といいます。
小早川さんは当時、派遣会社から大手通信・情報企業の職場に派遣され、テレホンアポインター(営業・販売)の仕事をしていました。
契約途中に
派遣会社との契約は、昨年7月1日から9月30日まで3カ月間の有期労働契約でした。
ところが、6月30日、派遣会社は「先方企業様の都合で契約が7月末までになる可能性がある」と、契約途中の7月末での解雇を通告したのです。
翌日、小早川さんは精神的ショックから頭痛やめまいがして、出勤できなくなりました。派遣会社や派遣先の会社に電話でその日休むことを告げました。
やがて、派遣会社から解雇通知書が届きました。
小早川さんは目を疑いました。解雇日が「7月31日」ではなく、「6月30日」になっていました。
有期労働契約で働く派遣社員については「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」(労働契約法17条)とされています。
「先方企業様の都合」という解雇理由が「やむを得ない事由」に当たるとは思えません。しかも、当初「7月31日までになる可能性がある」としていたこともほごにされ解雇日を一方的に「6月30日」にされました。納得がいきません。
小早川さんは派遣会社に対して契約期間満了の9月末日までの賃金と慰謝料の計約82万円の支払いを求め、裁判所に労働審判を申し立てました。
お金のない小早川さん。弁護士に依頼できません。独力で訴えました。
“負けない”
労働審判委員会は話し合いによる解決を促しましたが、会社側は応じませんでした。
そのため、審判委員会は、派遣会社に対し、未払いとなっている6、7月分にあたる約34万円の支払い義務を認め、会社に同額を解決金として支払うよう求める審判を出しました。
しかし、派遣会社は審判に異議を申し立てました。
困りはてた小早川さんはインターネットで日本共産党のホームページにアクセス。メールを送りました。紹介された日本共産党港地区委員会の雇用・福祉の相談室長を務める、おおつか未来さん(都議候補)に相談。弁護士の援助も得ることになりました。
現在、小早川さんのたたかいは訴訟に移行しています。
自宅には年金暮らしの父親と祖母を介護する母親。日雇い派遣などで働きながらの訴訟の準備はたいへんです。
「でも、泣き寝入りはしたくない」という小早川さん。「いきなりの解雇は絶対に許せません。負けたくありません」
パナソニックは正社員に
名古屋のシングルマザー
名古屋市で、小学1年の子どもと2人暮らしのシングルマザーの山川美由紀さん(26)=仮名=は、空気清浄機などを製造するパナソニックエコシステムズ春日井工場(愛知県春日井市)で昨年10月から、派遣労働者として働いていました。
ところが、同年12月26日、突然解雇を言い渡されました。
「どうしよう」。頭は真っ白。「自分1人だったら死んでいたと思います。子どもがいますから死ぬわけにはいきません」と語ります。
今、友だちから紹介された名古屋北部青年ユニオンの支援を受けて、生活保護の申請と、パナソニックに直接雇用を求める準備をしています。
パナソニックでの仕事は、朝7時30分に派遣会社が用意した送迎バスで名古屋市内から春日井工場に向かいました。午前8時半から午後5時まで働き、終業後は送迎バスで名古屋市内にもどるという日課でした。
日給8千円。「月収は11万円から12万円。貯金などできません。私、このまま解雇されたらヤバイんです」と山川さん。
取材した日の所持金は103円。「もうすぐ生活保護の決定がおりると思います。子どもは、中学、高校と、これからいっそうお金がかかります。正社員で働ける仕事に就きたい」と、パナソニックへの直接雇用の申し入れに期待をつないでいます。
女性の権利拡大を
日本共産党東京・港地区委員会の、おおつか未来雇用・福祉の相談室長(都議予定候補)の話
若い女性派遣社員の無権利の実態に怒りを覚えます。契約がいつ打ち切られるかビクビクして働かされている。一方で、結婚・出産、子育てを考える時期でもあり、仕事との両立にも悩みます。
人間として生きていく上で両立できることが本来あるべき姿なのに、選択を迫られる現状は、社会にとって大きな損失です。
派遣社員を含む女性の権利拡大は、男性の労働条件の改善にとっても大切です。
すべての人が人間らしく生きていくことができるように、ごいっしょに頑張っていきましょう。
労働審判制度 労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会で行われます。原則として3回以内の期日で審理し、話し合いによる調停を試み、解決に至らない場合には、審判を出します。審判に当事者から異議の申し立てがあれば、審判は効力を失い、訴訟に移行します。
お悩みHunter
家賃1万円の値上げ困る
Q 独身の会社員です。今住んでいる賃貸アパートを来月再契約したいと家主に伝えたら、突然、家賃を値上げしたいと言ってきました。今まで月7万円だったのを、8万円にするというんです。1万円の値上げは納得できません。今まで家賃が遅れたり、近所に迷惑をかけたりしたことはありません。何とかしたいのだけれど…。(28歳、男性)
応じる必要はない
A まず、賃貸借契約の更新についてです。賃貸借について期間の定めがある場合、期間満了の1年前から6カ月前までの間に、家主から「更新しない」との通知または「条件を変更しなければ更新しない」との通知がなければ、「これまでと同じ条件で契約を更新したもの」とみなされます。(借地借家法26条1項)
しかもこの更新拒絶は「正当事由」がなければ認められません。
また、建物の家賃の改定も家主が一方的にできるものではありません。借地借家法32条で(1)不動産に対する租税その他の負担の増減、(2)土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下、(3)その他の経済事情の変動による場合などや(4)近傍同種の建物の借賃に比較して不相当になったときは、当事者は借賃の増減を請求することができると定めています。
あなたの場合、近年一般的には不動産価格や賃料相場が上昇している傾向はありませんから、現在の7万円の家賃が、近隣の相場と比べて特に低額であるという事情などがなければ、今の家賃が不相当ということは考えにくいと思います。
ですから、1万円の値上げに応じる必要はないですし、値上げに応じなければ賃貸借契約が更新されないこともありません。
近隣の相場などと比べても現在の賃料が不相当でないことなどを家主さんとよく話し合ってみましょう。当事者での話し合いができないようであれば、弁護士などに相談してください。
弁護士 岸 松江さん
東京弁護士会所属、東京法律事務所勤務。日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会委員。好きな言葉は「真実の力」。