2008年11月2日(日)「しんぶん赤旗」
社会リポート
都立墨東病院の産科医不足
常勤半減 過酷な勤務
土日のたびに不安な思い
東京都で脳内出血を起こした妊婦(36)の死亡事件で、深刻な産科医不足が改めて注目されています。最初に受け入れを断った都立墨東病院(墨田区)の周辺住民は「(当直医が一人になる)土日のたびに地域のお母さんたちは不安な思いをしている」と一刻も早い対策を求めています。(本田祐典)
悲惨さ知って
|
「こんなに施設が整った病院なのに受け入れられなかったことが悔しい」。墨東病院の関係者は唇をかみます。別の病院関係者は「出産件数の多い都会で産科医が不足しているという現実がどんなに悲惨か知ってほしい」と語ります。
墨東病院はリスクの高い妊婦を診る都内九カ所の総合周産期母子医療センターの一つ。江戸川区、江東区、墨田区を中心とする地域の産科救急の拠点でした。五年前に八人いた常勤産科医は現在、四人に。体制維持が困難になった理由を、都は「過酷な勤務状況があった」(病院経営本部)といいます。今年七月、土日の母体搬送受け入れを中止しました。
六月に男の子を出産したばかりの女性(29)=墨田区=は「このままでは妊婦も、お産を引き受けてくれる地域のお医者さんも安心できない」と語ります。
死亡事件の七カ月前の今年二月、江戸川、江東、墨田各区の医師会と産婦人科医会は会長六名の連名で「総合周産期母子医療センターの継続と充実が必要」とする要望書を都と墨東病院に提出。都の返事はありませんでした。
江東区助産師会の加瀬けさ会長は「『墨東が搬送をなかなか受けてくれない』という声があがっている」と語ります。
三百六十五日の当直態勢に穴をあけた過酷な勤務を、墨東病院の関係者は「産科医は出勤時にはタイムカードを押すが、退勤は押さずにシフトの合間にも手術や診療など時間外労働に追われている」と証言します。数年前に連続三十二時間勤務(日勤、当直、日勤)の是正を試みたものの、産科医が減ったため従来と変わらない実態だといいます。
江東区内にある婦人科診療所の院長は「墨東の先生方はいつ過労死してもおかしくない」と話します。総合病院の産科に勤務した経験から「医師不足はどこも深刻で、産科医が労働基準法を守れと言ったら産婦人科医療は崩壊する。墨東は特に待遇が悪く勤務も過酷と聞く。なぜここまで放っていたのか不思議だ」と話します。
都立病院医師の給与は〇五年度、全国六十一都道府県・政令指定都市の公立病院のなかで最低水準でした。
都病院経営本部は「今年度から産科医の給料を増やし、女性医師の労働環境の改善や臨床研修医の育成にも取り組んでいる」としています。一方、都は墨東病院の独立法人化を検討しています。ある病院関係者は「都が切り捨てようとする病院に人生をかける医師がいるだろうか」と疑問を投げかけます。
本気の対策を
江戸川、江東、墨田各区の住民らでつくる「都立墨東病院を直営で存続させる会」の安田茂雄代表は「国は社会保障費削減のために医師数削減を押し付け、都は都立病院の切り捨てを進めて墨東病院の窮状も放置してきた。安心のお産確保、命第一に方向を切りかえて、本気の対策をしてほしい」と話しています。
妊婦が搬送を断られた経過 十月四日、出産間近の妊婦が脳内出血を起こし、かかりつけだった産科病院に搬送。かかりつけ医は都内八病院に要請しましたが受け入れ可能な病院が見つからず、約一時間後に最初に要請を断った都立墨東病院が産科部長を呼び出して受け入れました。妊婦は帝王切開で出産し、手術を受けましたが三日後に亡くなりました。
■関連キーワード