2008年7月25日(金)「しんぶん赤旗」
北朝鮮加入、25カ国に
東南アジア友好協力条約(TAC)
東アジア全域に広がる
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【シンガポール=井上歩】北朝鮮が二十四日、戦争放棄を明記した東南アジア友好協力条約(TAC)に加入しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)参加のため当地を訪問中の朴宜春(パク・ウィチュン)北朝鮮外相が同日、条約に調印しました。これにより北朝鮮は東アジア首脳会議への参加資格を得ました。
TACは、平和の地域共同体をめざすASEANの原加盟国が一九七六年に締結した条約。すべての国の主権尊重、相互の国内問題への不干渉、紛争の平和的手段による解決、武力による威嚇と武力行使の放棄を基本原則としています。北朝鮮の加入で、東アジアのすべての国が戦争放棄を約束したことになります。
ASEANは八七年に、TAC加入資格を域外の国にも開放しました。加入国は北朝鮮を含め二十五カ国。合計人口は約三十七億人で世界人口の約57%に達します。
TAC加入は、共同体形成を視野に入れて二〇〇五年から開かれている東アジア首脳会議に参加する条件。ASEANは以前から北朝鮮に加入を呼びかけていました。
ASEANは北朝鮮の加入を「地域の平和、安全、協力の促進に寄与する」として歓迎しています。北朝鮮代表団の随行員は二十四日、「地域の平和と安定に引き続き寄与していく」と述べました。
TAC加入国
インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー(以上、ASEAN加盟国)、東ティモール、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド、日本、中国、韓国、北朝鮮、ロシア、モンゴル、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、フランス。
解説
紛争 平和解決の流れ
北朝鮮による東南アジア友好協力条約(TAC)への調印は、国際紛争を軍事力でなく、平和的に解決する国際的な流れがいっそう強まっていることを示すものとなりました。
TACは、東南アジア諸国連合(ASEAN)が、地域の平和共同体の基礎として位置づける条約。「締約国の国民の間の永久の平和、永遠の友好及び協力を促進」を目的に掲げ、締約国同士の関係を律する原則として、「紛争の平和的手段による解決」(第二条d項)や「武力による威嚇、または武力の行使の放棄」(同e項)などを明記しています。
北朝鮮は、ブッシュ米政権の「圧殺政策」に対抗するとして、軍事優先の「先軍政治」を唱え、長距離ミサイル発射実験や核実験を強行。軍事的緊張を高めることにより、目的の達成をねらう瀬戸際外交を繰り返してきました。
近隣諸国の国民の不安をあおり、地域の不安定要因となってきた北朝鮮が、世界の平和と安定、友好と協力の促進をめざすTACの諸原則を承認したことは、一つの変化といえます。
TACは、ASEANと日本、中国、韓国など十六カ国が参加する東アジア首脳会議(EAS)に出席するための条件になっています。TACへの加入で、北朝鮮が、東アジア共同体の創設をめざすEASに参加する道も開かれました。
北朝鮮のTAC加入は、地域の平和と安定に果たしているASEANの役割を改めて浮き彫りにしました。
北朝鮮は二〇〇〇年から、ASEAN側の説得を受け、ASEAN地域フォーラム(ARF)に参加してきました。
同年、フィリピンが北朝鮮と国交を結び、〇七年にはミャンマーが北朝鮮との国交を回復。ASEAN加盟の十カ国すべてが北朝鮮との国交を持っています。今回のARFでは、六カ国協議の初の外相会合の舞台を提供。TACへの加入もASEAN側の働きかけで実現したものです。 (中村圭吾)
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