2008年6月30日(月)「しんぶん赤旗」
六カ国協議と北朝鮮の核申告
北朝鮮は二十六日、六カ国協議の議長国である中国にたいして、同協議の合意にもとづいて核開発計画の申告書を提出しました。これを受けて米政権は、北朝鮮をテロ支援国家指定から解除する手続きに入りました。
この動きについて、日本共産党の志位和夫委員長は、「昨年十月の六カ国協議の合意にもとづいた朝鮮半島の非核化に向けた一歩として歓迎する」との談話を発表しました。
アメリカのブッシュ大統領は、北朝鮮による申告書の提出は非核化に向けた積極的な一歩であると歓迎しました。中国、韓国、ロシアも、この動きへの強い支持を表明しました。国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は「この目標(非核化)に向かっての関係国の努力を強く支持する」とのべています。
折から京都でおこなわれていた日本の高村外相が議長を務めた主要八カ国(G8)外相会合でも、北東アジアで生起しているこの動きを一致して支持することを確認しました。
六カ国協議の2つの原則
日本には、与野党の一部にもマスメディアのなかにも、「核兵器に触れていない申告は実効性のないパフォーマンスだ」とか「テロ支援国家指定の解除で、拉致問題解決の有力カードを失った」などという議論があります。
こうした議論は、六カ国協議の進展と今回の申告との関連を見誤ったものです。
六カ国協議は、「段階的解決」および北朝鮮と他の五カ国との「同時行動」という二つの原則をすえて、合意をつくり積み上げ、その実行をすすめるという経過をたどってきました。
今回の申告とそれに対応する措置は、六カ国協議が目標とする北朝鮮の「すべての核兵器および核計画の検証可能な廃棄」への一つの重要な段階です。
六カ国協議は、二〇〇三年八月から始まりましたが、主要議題の「朝鮮半島の非核化」をどうすすめるかという合意に至ったのは、協議を開始してから二年を経た○五年九月のことでした。その具体化の措置として、○七年二月、「初期段階の措置」(寧辺の核施設の活動停止と封印やすべての核計画の一覧表の協議など)が決められ、その実行後の○七年十月に、いま問題となっている「第二段階の措置」が合意されたのです。
そこでは、寧辺の施設の無能力化の完了、二〇〇七年末までのすべての核計画の完全かつ正確な申告をおこなうこと、さらに、北朝鮮が核物質、技術の移転をしないという不拡散などが取り決められました。
北朝鮮の非核化にむけて、○七年二月の共同文書では「行動対行動の原則に従い、共同声明を段階的に実施していくための調整された措置をとる」ことが決められ、いくつもの段階を踏んできました。関係国が一様に歓迎しているのは、今回の申告が、核兵器の完全放棄という新しい段階にすすむうえで不可欠なステップとみているからです。
この段階にいたる六カ国協議には、もう一つの特徴があります。それは、北朝鮮と米国の直接交渉先行のパターンでおこなわれてきたことです。米朝の主張のぶつかりあいと妥協をふくめての合意の積み重ねでしたから、米国がもっとも詳細に事態を把握しているという構造ともなっています。
今回の申告には、核兵器の数や貯蔵場所などの情報が含まれていないといわれています。それについてヒル米国務次官補は、○七年十月の合意ができたときから、「申告に含まれるのは、核施設、核物質、核計画となろう」とのべ、「第三段階である最終段階で、北朝鮮の核施設の廃棄、これまで製造してきたすべての核分裂物質の捕獲、核兵器と存在する核計画の放棄を目指す」とのべていました。(○七年十月二十五日)
ライス米国務長官も、「第三段階になってはじめて、他の五者が北朝鮮にたいして完全かつ検証可能な核計画の廃棄を求める議論を始めることになり、それは、間もなく開始されるだろう」(六月十八日の講演)とのべています。
申告の検証と次のステップ
申告内容については、今後厳しい検証が不可欠です。検証の態勢について、米政府のハドリー安全保障担当補佐官は、北朝鮮以外の各国の代表が北朝鮮の原子炉や廃棄物貯蔵施設など関連施設を訪れ、すでに提出されている資料も含め過去の作業記録、マニュアルなどを精査し、核開発にかかわる北朝鮮の要員からの聞き取りもする方針を明らかにしています。米政府は、検証作業に数百人を投入するとのべています。
検証により、(1)北朝鮮の核計画の諸側面を全面的で完全に理解することが可能になる、(2)さまざまな機器や寧辺などの核施設を含む北朝鮮の核システムを廃棄するプロセスを開始し、また核拡散を確実に不可能にすることができる(米国務省のケーシー報道官)と期待されています。検証の手順で合意することが近く開かれる六カ国協議首席会合の主要議題の一つです。
日本共産党は、こうした経過を踏まえ、今後の重要な課題を見定めながら、志位委員長の談話のなかで、「これが北朝鮮の核兵器の完全放棄につながることを強く期待する」と表明したのです。
核問題の前進は拉致問題の前進となる
北朝鮮の申告と同時におこなわれた米国によるテロ支援国家指定解除の手続きは、六カ国協議のなかで設置された作業部会の一つである米朝国交正常化部会で合意され、○七年二月の六カ国協議会合において、「米朝間で完全な外交関係を目指すための協議」「テロ支援国家指定解除のための作業等」を開始するとされ、日本政府も含めて六カ国で一致して合意されていたことでした。
米朝両国が、これまでの敵対的な関係から脱することは、北東アジアの安全保障にとっても重要な出来事です。それは核問題ばかりでなく、日朝間の諸懸案を解決するうえでも、前向きな影響を及ぼしうるものです。
申告提出(二十六日)を前に日朝実務者協議がおこなわれ(六月十一、十二日)、前進的な内容であったことも、申告を控えていたことと無関係ではないでしょう。それは、米国をふくめて関係国が日朝関係の改善を六カ国協議全体の帰趨(きすう)にかかわる問題として、大きな関心を寄せ、北朝鮮に働きかけていたことにもあらわれています。ライス国務長官は、「先の日朝協議は、拉致問題で米国が北朝鮮に督促したことに少なからず負っているといって差し支えないと思う」(六月二十三日)とのべています。
拉致問題を含めた日朝間の懸案処理をすすめるのは日本政府ですが、そのために、六カ国協議の参加国、そして国際社会全体の理解と共感を得ることは不可欠です。そのためにも、六カ国協議の主要課題である核問題に日本が率先して取り組むことが必要です。
その点で、仮に日本が核問題の解決に熱意がないとみられるならば、それは、拉致問題での他国との連携に障害をつくるものにならざるをえません。そもそも北朝鮮の核兵器によってもっとも脅威を受けるのは日本です。関係国も事柄も相互に影響しあっています。核兵器問題と拉致問題をふくめた日朝間の諸懸案との関係について、日本共産党は、ある課題が先行して前進した場合、それはその他の課題の前進の妨げになるのではなく、促進することになりうるという提言をおこなってきました。志位委員長は、拉致問題の重要性を強調すると同時に、「核問題で日本政府が積極的姿勢をとることは、拉致問題にたいする国際的理解と支援を高めるうえでも役立つでしょう」(○七年十月四日の衆議院代表質問)と強調してきました。
今回生まれた新しい条件のもとで、日本共産党は、「諸懸案の包括的解決をめざす日朝両国政府の努力を期待」(志位委員長談話)したのです。(檀 竜太)
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