2008年5月8日(木)「しんぶん赤旗」
主張
障害者権利条約
批准へ国内法の見直しを急げ
国連の障害者権利条約が三日、発効しました。発効に必要な批准国が先月二十カ国に達したためです。
一昨年十二月の国連総会で採択された同条約には百を超える国が署名しており、日本政府も昨年九月に署名して、現在批准に向けて準備作業を進めています。条約の批准は当然ですが、政府にいま求められているのは単に批准さえすればよしとする態度ではなく、障害者の権利保障をうたった条約に違反するような現状を早急に是正することです。
権利侵害の「応益負担」
「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利について平等である」とうたった「世界人権宣言」が採択(一九四八年)されて、今年で六十年になります。この間、国連は人権保障を一貫して重視し、人種差別や女性差別の撤廃条約、子どもの権利条約の制定などにとりくんできました。障害者分野では、「障害者の権利宣言」(一九七五年)や「国際障害者年」(一九八一年)をはじめ積極的な議論と共同行動が展開され、同時に、アメリカをはじめ世界各国で、差別禁止と平等の実現をめざす新たな障害者法制確立の動きが広がりました。
二十一世紀最初の人権条約である障害者権利条約は、人権保障の国際的到達点をしめすものです。すべての人に保障されるべき普遍的な人権と基本的自由を、障害のある人にたいして差別なく完全に保障することを提起しています。福祉サービス、雇用、教育など各分野において、「障害にもとづく差別」を禁止し、平等を促進するために、締約国が適切な行動をとることが規定されていることも特徴です。
国際条約は憲法に次ぐ位置にあります。国は批准に向けて、条約に反するような国内法の見直しをおこない、権利保障の水準を抜本的に高める責任があります。ところが日本政府は、きわめて消極的です。
たとえば、障害者自立支援法です。「〇九年度に抜本的な見直しを行う」と言明していますが、「法の規定によるもので、条約の批准に向けて見直すのではない」との態度です。
自民・公明政権が強行成立させた自立支援法の「応益負担」は、障害者が生きていくために必要な最低限の支援を「益」とみなし、費用を課すものです。障害者の社会参加と人権保障をうたう障害者権利条約の趣旨と相いれません。
批判におされて国は、「特別対策」(〇七年度)と「緊急措置」(〇八年度)によって一定の負担軽減策を講じましたが、対象外の人が依然として多数存在し、根本的矛盾は解決されていません。「応益負担」制度はただちに廃止すべきです。
条約の趣旨に照らして、難病患者をはじめすべての障害者が福祉施策の対象となるよう障害の定義を見直すこと、障害のあるすべての人を対象にした「総合的な福祉法」(仮称)の制定、平等を保障するための「障害者差別禁止法」(仮称)の制定なども急ぐべき重要課題です。
共同の運動さらに広げ
国内法制度の見直しにあたって、障害のある人や関係団体の参加を重視すべきことも当然です。
障害者の人間らしい生活と権利を求めるねばりづよい運動が、障害者権利条約制定の流れをつくりだし、日本でもいま政府を動かしています。障害のある人の自由と権利を豊かに実現するために、自立支援法の抜本的見直しと障害者法制・施策を国際的な水準に改善させるための世論と運動を大きく広げるときです。
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