2008年2月9日(土)「しんぶん赤旗」
派遣労働の規制強化へ舵切り替える時
志位質問 雇用破壊の根本ただす
「人間をモノのように使い捨てにする働かせ方をやめるべきだ」―八日の衆院予算委員会の基本的質疑で、社会問題になっている派遣労働の実態を取り上げた日本共産党の志位和夫委員長。若者の深刻な実態を突き付けられ、福田康夫首相も「決して好ましいものではない」と述べるなど、労働者派遣法の抜本改正が緊急課題であることが浮き彫りになりました。
不安定・低賃金・危険
日雇い派遣禁止を
“使い捨てダメ”と厚労相
「体調を崩して休めばたちまち収入が途絶え、アパート代すら払えず『ネットカフェ難民』に落ち込む」――派遣労働の中でも最も不安定で無権利状態にある「日雇い派遣」の問題を取り上げた志位氏。全労連、首都圏青年ユニオン、派遣ユニオンなどから寄せられた生々しい実態をもとに、日雇い派遣を禁止し、安定した雇用を保障するよう求めました。
日雇い派遣は、派遣会社に登録し携帯電話にメールで集合時間と仕事先が送られてきます。契約期間は一日だけ、手取り額も六千円から七千円にすぎません。究極の不安定雇用であり、異常な低賃金のうえ、労働災害も多発しています。
派遣が禁止されている建設の解体現場で働かされ、正社員が防じんマスクをするなか派遣労働者はタオルをまいただけで作業をしていた人もいました。志位氏は、「こんな非人間的な労働はない」という労働者の訴えを紹介し、「日雇い派遣が人間をモノのように使い捨てし、人間性を否定する労働だという認識はあるか」と迫りました。
舛添要一厚労相は、「使い捨てという形で労働者を扱ってはいけない」と答えざるを得ませんでした。
さらに志位氏は、政府が出した日雇い派遣の指針について実効性があるのかと追及。派遣会社フルキャストから派遣され、沖電気関係の会社で二年にわたって日雇い派遣として働いていた二十六歳の女性に、一日単位で渡されていた書面での労働契約書の束を示してただしました。
指針では労働内容を書面で明示するよう求めていますが、志位氏が掲げた契約書の一番下には、「(契約)更新の可能性有り」と書かれているだけで、これでは更新されない可能性もあり、不安定雇用をなくす保障はありません。
志位氏は、実際この女性が二年間働いたあげく「もう来なくていい」の一言で解雇された事実を指摘し、「(指針は)およそ現実をみない机上の空論だ」と厳しく批判しました。
志位 一九九九年の派遣労働の原則自由化が、登録型派遣と結びついて日雇い派遣という働かせ方をつくりだしている。歯止めをかけるべきではないか。
首相 日雇いという形は、決して好ましいものではないと考えている。
志位 重要な答弁だ。好ましくないという方向で法改正に踏み切るべきだ。
志位氏は、労働者派遣法改正による日雇い派遣の禁止と、安定した雇用への転換を主張し、「そのイニシアチブを首相に果たしてもらいたい」と求めました。
日雇い派遣 派遣会社に登録し、仕事があるときだけ働く「登録型派遣」の一種。携帯電話やメールで紹介された派遣先で日替わりのように短期就労を繰り返す働き方です。一九九九年の労働者派遣法改悪で派遣労働が原則自由化されて以降急増しています。
年収二百万円にも満たない低賃金のうえ、明日の雇用の保障もないため、究極の不安定雇用と呼ばれています。
日本共産党は、「日雇い派遣」を禁止し、安定した仕事の保障を求めています。
企業は違法でも おとがめなし
労働者保護へ改正を
港湾・建設業務への違法派遣、「偽装請負」…。派遣最大手・グッドウィルに対する事業停止処分は派遣労働の世界に無法が横行していることを象徴的に示しました。
志位氏が指摘したのは「現行派遣法が、悪質な派遣元企業、派遣先企業を保護する法律になっている」という問題です。志位氏は、この問題で処分・告発がどう行われたのか、パネル(①)を示しました。派遣業の許可をとっていない東和リースだけが職安法違反で刑事告発されましたが、派遣元のグッドウィルや二重派遣にかかわった他の派遣会社は「行政処分」しか受けていません。
さらに、派遣先企業にいたっては何の処分もされず、企業名の公表すらされていません。
実際、この間、相次ぐ「偽装請負」の派遣先企業には、トヨタ自動車、キヤノンといった大企業のグループ会社がズラリと並んでいます。しかし、志位氏が、「偽装請負」を摘発された派遣先企業のうち、勧告、公表という行政処分を受けたのは何社かとただすと、厚労省は「ございません」(太田俊明職業安定局長)と認めました。
「派遣先企業は違法行為の『共犯者』なのに何のおとがめもなしだ」と追及する志位氏。「『偽装請負』で一番大もうけしているのは派遣先の大企業だ。異常というほかない」と強調しました。
派遣法は、労働者を無法から守るために機能しているのか―。厚労省が「是正指導」をした結果、「偽装請負」で働かされていた労働者がどうなったのか同省が二〇〇六年十二月分について行った後追い調査の結果を明らかにしました。(パネル②)
それによると、「偽装請負」で働かされていた八千四百四人のうち、摘発によって「期間の定めのない直接雇用」(正社員)となったのはわずか十八人(0・2%)。約九割の人が派遣・請負という不安定雇用のままです。しかも、離職を余儀なくされた人は三百六十一人にのぼっています。
志位氏は「現行派遣法は、違法行為が摘発された場合に、派遣元、派遣先企業は保護するが、労働者は保護していない」と告発しました。
志位 総理、このシステムはおかしいと思わないか。
首相 是正指導にさいしては雇用が失われないよう派遣先、派遣元の企業に指導している。
志位氏は「社員になったのは十八人。雇用を失った人の方が多いというのが実態だ」と述べ、派遣法の抜本改正が求められていることを強調しました。
パネル① |
パネル② |
偽装請負 実態は労働者派遣なのに、派遣元企業に仕事を請け負わせる形を装って違法に働かせること。
労働者派遣法では、派遣先企業は一定期間後には直接雇用を申し入れる義務や、労働安全上の責任が生じます。また労働者を直接雇用すると、年金など社会保険料を負担しなければなりません。偽装請負は、こうした義務や責任を逃れるのが目的です。
正社員を派遣で代替
「コスト減」とキヤノン
首相「実態確認させる」
政府は、派遣は臨時的・一時的業務に限り、正社員を派遣労働者に置き換える「常用代替」にしてはならず、同一業務への派遣は最長三年までに制限するとしてきました。
志位氏の質問に福田首相は「臨時的・一時的な労働力の需給調整制度に変わりはない」と認めました。
この原則が守られていないのが実態だと指摘した志位氏。日立のグループ企業で働く若い女性が五年間も同じ業務に派遣されながら、法律に触れないように班を変えられ、派遣が続いている実態を示しました。
志位 班だけを変えて長期間劣悪な状態で働かせることが許されるのか。
厚労相 法律に違反しているなら指導し、是正させる。
実態を無視できない舛添厚労相に対して志位氏は、厚労省の「労働者派遣事業関係業務取扱い要領」で、「班などを変えれば長期間同じ派遣先で働かせてもよい」と「脱法行為のすすめ」までしていることを批判。三年の期間制限違反が摘発されても正社員になれたのは、ゼロであることを示し(パネル③)、「常用代替」を禁止する実効措置が必要だと迫りました。
さらに、日本経団連会長企業であるキヤノンではひどい実態が―。
キヤノンは内部資料で「外部要員の活用は、…労働コスト面からも非常に有益であり、派遣労働者・請負労働者の活用の機会は今後さらに増してくる」と「常用代替」によるコスト削減の狙いを自認。大分県のグループ企業の工場では操業から八年もたつのに派遣労働者が半数を占めています。
志位 八年も操業を続けているのに半数は派遣労働者というのは、おかしいではないか。
厚労相 企業には社会的責任が問われる。法律を守り、胸を張れる企業になってほしい。
さらに滋賀県長浜市の工場では、ある製造ラインの二十四人が全員、派遣労働者です。労働者が秒単位の仕事に追われ、「まるでモノ扱い。自動機械のように働かされる」という声を志位氏が紹介すると、他党議員から「ひどいじゃないか」との声が上がりました。
キヤノンの御手洗冨士夫会長・日本経団連会長の参考人招致を求めると、他党議員から賛同の声が上がりました。
志位 日本のものづくりを支える労働者がこんな働かされ方をして日本の将来があると思うか。
首相 実態は厚生労働省に確認させる。若者の間で非正規労働が増加、固定化することには注意する必要があり、派遣制度の見直しに努めたい。
実態を示して迫る志位氏に、とうとう首相も調査と見直しを約束しました。
志位氏は、「労働者派遣法を、派遣労働者保護法へ抜本的に改正すべきだ」として、常用代替原則の明文化などを提起。
首相が、「中長期的に見てこの雇用の形は好ましくない」と答えたのに対して志位氏は、「今こそ労働法制の規制緩和から強化へとかじを切り替え、大企業から家計・国民に、経済政策の軸足を転換すべきだ」と主張しました。
パネル③ |
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