2008年1月26日(土)「しんぶん赤旗」
主張
軍事利権疑惑
「守屋事件」で落着ではない
軍需商社「山田洋行」の元専務らから巨額の接待を受けていた前防衛省事務次官の守屋武昌被告が、収賄と議院証言法違反(偽証)の罪で追起訴され、逮捕から約二カ月ぶりの二十三日に保釈されました。
起訴されただけでも総額千二百万円以上といわれる贈収賄事件の追及の舞台は法廷に移りますが、政軍財の根深い癒着を浮かび上がらせた軍事利権疑惑は、これで一件落着とさせるわけにはいきません。「山田洋行」に絡んで浮上した政治家の疑惑も、日米の軍需企業に広がった疑惑も、徹底的に糾明すべきです。
起訴事件は氷山の一角
長年にわたってゴルフや飲食などの接待を受け、娘の留学費用などの名目で現金まで受け取っていた守屋被告の「山田洋行」との癒着は、軍需品の納入をめぐる特権官僚と軍需企業との癒着の根深さ、奥深さを浮き彫りにしています。検察は、自衛隊の装備品納入での有利な取り計らいへの謝礼と認識して、接待や現金を受け取ったことを起訴する理由に挙げました。具体的な事例は特定しませんでしたが、疑惑を指摘された事例は多数あります。
いずれにせよ、ついこの間まで防衛省の事務方のトップを務め、防衛庁の省昇格や自衛隊の海外派兵、米軍再編の受け入れなどに中心的な役割を果たした人物の起訴は、軍需企業の利益のために政策がゆがめられる、政軍財の癒着のみにくさを、文字通り、象徴しています。
重大なのは、守屋被告の起訴された事件はあくまで氷山の一角であり、解明が求められる癒着が、「守屋事件」だけでないことです。「山田洋行」による接待や、「山田洋行」とそのライバルになった「日本ミライズ」による工作に関与したとして名前が挙がっただけでも、現・元の防衛特権官僚、政治家など多数に上ります。
とくに、名指しされた防衛相・長官経験者である久間章生自民党衆院議員や額賀福志郎現財務相らの責任は重大です。久間氏や額賀氏が、宴席での接待や政治献金をめぐり、自ら疑惑を解明する責任を果たしているとはとてもいえません。国民の前に真相を明らかにするとともに、不当なわいろと引き換えに政策をゆがめた事実が明らかになれば、その責任を明白にすべきです。
守屋被告の事件をきっかけに、日米の巨大軍需企業をめぐる、政軍財癒着の実態も浮かび上がってきました。その「フィクサー」(黒幕)ともいわれた「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀常勤理事は国会で追及されましたが、疑惑にまともにこたえていません。日米の軍需企業が政治家などの力を借り、巨額の兵器の売り込みなどで日本の防衛政策をゆがめてきたのではないか―疑惑は徹底的に糾明されるべきです。
軍事費聖域の政治の責任
かつての事件をひくまでもなく、軍需品の調達をめぐっては癒着があとを絶ちません。それはこの分野が日米軍事同盟の陰に隠れ、財政事情が悪くても軍事費だけは拡大する、聖域とされてきたからです。
防衛省などが言い訳するように、軍需生産は市場が限られていることだけが原因ではありません。軍拡を続け、軍需企業をのさばらす、アメリカ第一・大企業本位の政治そのものが癒着の温床です。
疑惑を徹底追及して軍事利権の全容を明らかにし、癒着した政治家と特権官僚、軍需企業の責任をあきらかにするとともに、癒着を生む政治そのものを根本からただすことこそがいま求められます。
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