2007年11月19日(月)「しんぶん赤旗」
9条の国で 2007 過半数世論めざし
お寺の7割 協力
アピールに賛同拡大
富山市水橋地域
富山県富山市水橋地域(旧水橋町)。この地域に昨年六月に誕生した「水橋・九条の会」は結成一周年の六月に、二百八十人の連名で「九条の会アピール」支持を表明するビラを発行し、話題となっています。「九条の会」の全国交流集会(二十四日)を前に、現地を訪ねました。(中祖寅一)
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水橋地域は約五千五百世帯、一万六千人が暮らします。晴れた日にはすでに真っ白に雪化粧した立山連峰が一望できる、市の東端にあります。現在は、富山市の中心部に通勤するサラリーマンの新興住宅地として変貌(へんぼう)を遂げつつあります。大正の「米騒動」発祥の地としても知られます。
浄土真宗本願寺派の住職(54)は語ります。
「戦争になれば宗教は弾圧される。戦争に向かっていく中で宗教は利用される。この間違いを絶対に繰り返してはなりません。宗教家は今、声を上げていかねばなりません」
住職は、一九八五年の中曽根元首相の靖国神社公式参拝のころから戦争と宗教弾圧への「心配」が強くなったといいます。
「九条が改悪され戦争推進ということになれば、主権在民の解釈も全部変わってくる恐れがあります。政治の場での『数の論理』に負けないように、みんなが思っていても声に出せない思いを出し合える場が必要です」
「会」事務局次長の大橋国昭さん(66)は「九条の会」にかける住職の思いを聞き、「これほど深い信念を持って参加していたのだと改めて知り、感銘しました」と語ります。
住職は「今度の自民党と民主党の大連立という話の根っこにも『憲法改正』があります。小沢さん(民主党代表)の言う『普通の国』とは、軍隊を正式に認めろというものです」といいます。
「水橋・九条の会」が取り組んだ「アピール」支持のビラ発行には、宗教者の賛同が大きな力になり、地域の七割を超すお寺が協力しました。
平和憲法なくしてどうする!
昨年秋に「会」で行った京都への旅行。あらかじめ連絡して訪問した金閣寺と東本願寺で、「私たちも平和でがんばっています」と僧侶に出迎えられ、和やかにコースを案内してもらいました。
今年春ごろから、「会」は「私も九条改憲に反対です」と、地域の人々に名前を出してもらう活動に取り組むことになりました。「真宗王国」といわれ、住民とお寺との結びつきの強い土地柄。「お寺の賛同を力にしてはどうか」という声が自然に出てきました。
連名ビラ
同会事務局のメンバーは地域に二十四ある寺院すべてを回り、十四カ寺の住職が賛同を表明。他にも二つのお寺の住職が「寺の名前は出せないが個人として賛同する」とし、肩書きなしで名前を出すことに同意しました。一つのお寺の住職は「名前は出せないが趣旨には賛同する」とカンパ。実質的に七割を超すお寺が協力を表明しました。
「会」では、十四カ寺の住職の連名で「宗教者はあらゆる殺生を認めません。九条改定は、海外でアメリカと戦争することが目的です。平和を願っているみなさん、九条をしっかり守りましょう」と呼びかけるビラを作成しました。「うちのお寺も出ている」「それなら」と、次々と地域の人々が自分の名前を出すことに同意。目標を上回る二百八十人の連名ビラができました。
同会事務局長の岡田美乃利さん(62)は「『やっぱり名前を引っ込める』と言い出す人も出るかと思っていたら、逆に『私も反対なのにどうして出してくれないのか』と言う人が出てきた。『次の分で名前を出すから』と話しています」と笑顔を見せます。
表情一転
「せっかくの平和憲法をなくしてどうするか!この一語に尽きる」
好々爺(こうこうや)の表情が一転しました。「会」の呼びかけ人の一人、旧水橋町の元助役、林清忠さん(90)です。町議や自民党地元支部の幹事長を歴任するなど、長く地域の保守派の中心の一人でした。
「戦争ちゃね、お互い殺(や)らねば殺られる、殺し合いだっちゃ。二度とするもんじゃない」
戦中は衛生兵として旧「中支」で野戦病院に勤務。一九四二年(昭和十七年)、三年一カ月の従軍の後、帰国しました。
「いよいよ戦闘が始まろうとする町から民間人を避難させるのだが、ペストに感染した中国人がいた。軍は外に出すわけにはいかないと、三百人の感染者のいる建物に油をかけて火をつけた。声を上げる間もなくあっというまに焼けた。ひどいものだった」
弟は二十歳の若さでフィリピン沖で戦死しました。
「小泉首相のころから憲法改悪の動きが出てきて、それで三年前に自民党を脱退した。今じゃ無党派だ。イラク戦争もアメリカの思惑で勝手にはじめた戦争だろう。それに日本が憲法を変えて参加するなんて許してはならないことだ」
昨年六月の「会」結成から約一年半。呼びかけ人会議では毎回情勢や憲法の学習をし、月一回ニュースを発行してきました。「会」の趣旨に賛同を表明する地域の医療生協の人々の協力も得て、ニュースは地域の半数以上の世帯に配布。「会」結成二周年に向け、さらに九条の会のアピールに対する地域の賛同者を増やし、倍加しようと意気込んでいます。
九条の会アピール 「九条の会」が二〇〇四年六月十日に発足したときに、「会」をつくった九人の連名で発したアピール。九条「改憲」の動きがかつてない規模と強さで台頭していると警告し、広範な国民が日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ行動することを呼びかけました。
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