2007年3月25日(日)「しんぶん赤旗」

働けど… ―若者たちは(2)

「配布マン」

明日から来なくていい


 「仲間が首を切られ(解雇され)ました。助けてください」。記者の携帯に電話がかかってきました。東京都内のある駅前で、大手サラ金会社の宣伝用ティッシュを配布している契約社員の男性(44)からでした。取材で知り合いました。

 解雇されたのは東京都武蔵村山市に住む井川亮さん(33)=仮名=。さっそく井川さんに電話しました。「突然ですよ! 『明日から来なくてもいいです。上(本社)からの命令です』と…。頭が真っ白になりました」。怒りにふるえる口調が耳に響きます。

 井川さんに会いました。「うわさでは各支店でも解雇されているようです。どうすればいいんでしょうか」

×……×

 井川さんは、二つの仕事を掛け持ちする「ダブルワーク」で収入を得ています。登録型派遣社員として広告チラシを街頭で配る仕事とサラ金会社のティッシュ配布。

 広告チラシ配布は時給は千五百円。ティッシュ配布は時給千五十円。

 「二つの仕事を合わせても月二十万円。少ない月では十七万円です。七十歳を過ぎた両親と暮らしていますが、長男なので家に八万円は入れています」

 チラシ配布を「天職だと思っています」と話します。五時間で千八十二枚配布の記録を持ち「配布マン」として誇りを持っています。「ティッシュは実用性がありますから受け取ってくれます。しかし、広告チラシは受け取らない。それを配りきるためには技がいるのです」といいます。

 「相手の正面に立って『おはようございます』とおじぎとあいさつをして、通行人の方は一期一会ですが、本当に心の底から感謝して配ること。目で対話する。腰を低く笑顔を絶やさず、一歩相手の懐に踏み込んで渡す」

×……×

 井川さんは工業高校を卒業後、大手スーパーの子会社で正社員として二年半働きました。月給は約十三万円。サービス残業もさせられました。

 両親はすし店を営んでいました。母親が病気で入院。退職し、店の手伝いをしました。

 母親の病気が回復した後に就職したのは、別の大手スーパーのパート社員でした。働く時間が短くて月収は十万円そこそこ。別のスーパーでもアルバイトしました。「二つのアルバイト合わせても月十六万円。八年六カ月間のダブルワークでした」

 母親の病気が再発。退職し、再びすし店を手伝いました。その店も父親が七十三歳になったとき廃業。井川さんは三年前からティッシュや広告チラシの「配布マン」として働いてきました。

 健康保険や年金に加入していません。夢は「正社員」です。

 大手サラ金会社の身勝手な扱いに、「もう我慢できない」と井川さん。仲間たちと、労働関係の民事紛争を迅速・適正に解決する目的で昨年四月から実施された「労働審判」に訴える準備をしています。 (つづく)



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