2007年3月14日(水)「しんぶん赤旗」

残業代

割増率 80時間超50%

労働3法案を閣議決定


 政府は十三日の閣議で、長時間残業の割増賃金を引き上げる労働基準法の一部改正案、雇用のルールを定める労働契約法案、最低賃金法改正案の三法案を決定しました。

 労基法改正案は、長時間労働に歯止めをかけるとして、月八十時間を超える残業について賃金の割増率を50%以上とすることなどが柱。中小企業には適用を当面猶予します。現行法では25%以上50%以下と定められています。改正案は、過労死ラインの月八十時間まで割増率を引き上げないもので長時間労働の歯止めには極めて不十分です。

 最低賃金法改正案は、地域別最低賃金の決定にあたり、「生活保護との整合性に配慮する」ことを盛り込みました。生計費をまかなえない低水準にある最賃の引き上げにつながるものです。

 労働契約法は、労働契約は労使が「対等の立場における合意に基づいて締結・変更すべき」だと「労使対等」原則を定めています。

 労働条件の変更については、労働者の合意がなければ、使用者が一方的に定める「就業規則」で変更できないと規定。しかし、「労働者の不利益変更の程度」などから変更が「合理的」なものであれば就業規則で変更できるとしています。

 労使が対等の立場で結ぶ労働契約法に、使用者の一方的な変更を認める条項を盛り込むべきでないとして、削除を求める声があがっています。

 有期雇用の規制や均等待遇など当然盛り込むべきルールさえ掲げられておらず、労働者の保護に役立つ新法を制定するには不十分な内容です。


残業上限決めず過労死ライン容認

 労基法改正案に盛り込まれた残業代割増率の引き上げは、“過労死ライン”の月八十時間を超えて初めて賃金の割増率を50%以上とするもので、長時間労働の根絶には極めて不十分な内容です。

 日本の長時間労働の原因は、残業時間を法的に規制せず“青天井”になっていること、残業割増率が低水準のため、「人を新たに雇うより残業をさせたほうが得」になっていることにあります。

 残業の上限は現在、月四十五時間、年三百六十時間となっていますが、「目安」とされており、罰則もありません。

 「特別協定」を結べばこの上限を超えて働かせることができます。トヨタでは上限時間の二倍にあたる年間七百二十時間まで働かせることができる協定を結んでいます。

 こうした抜け穴を禁止し、残業時間の上限を法的に規制すべきです。

 残業代割増率も、アメリカ50%などに比べて極めて低い水準です。全労連や連合はすべての残業割増を諸外国並みの50%まで引き上げるよう求めています。

 厚労省は当初、「30時間以上で50%」を提案していましたが、「割増率を引き上げると残業代ほしさから労働時間が長くなる」などと使用者から反対され、どんどん後退させてきました。

 本来、過労死ラインを超える残業時間は禁止すべきであり、わずか50%の割増賃金で容認することは許されません。

 しかも、民間労働者の八割を占める三百人以下の中小企業には「当分の間」適用されず、実効性や有意が疑われます。

 割増率引き上げはもともと、ホワイトカラー・エグゼンプション(WE=労働時間の規制除外)とセットで導入がねらわれていました。しかし、WEが国民の猛反対にあい断念し、「先行実施する」(与党議員)として出してきたものです。

 残業代を取り上げ、長時間労働を強いるWEを導入すれば、残業代を引き上げる意味などなくなってしまいます。「政府・与党の長時間労働抑制へ向けた意欲を疑わざるをえない。これでは、まさに選挙向けの厚化粧を施した政策の安売りである」(鴨田哲郎労働弁護団幹事長)と批判されても仕方ありません。


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