2002年4月29日(月)「しんぶん赤旗」
「夜間外出禁止は、社会秩序を維持する上で検討されるだろう。否定はしない」
「戦争国家法案」が想定する私権制限の一例について、内閣官房の担当者はこう明言しました。軍隊が国民生活を全面的に統制下におく「戒厳の夜」の再現です。
「国民の生命・財産を保護するため」――有事法制に関する政府・与党の最大の口実です。
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武力攻撃事態法案では「国民の生命、身体及び財産を保護するため」に今後法律で定める措置の例をあげています。
警報の発令、避難の指示、社会秩序の維持、輸送及び通信に関する措置…。その実態は、果たして国民「保護」なのでしょうか。
自衛隊発足間もない一九五七年。陸上自衛隊幹部学校でおこなわれた研修では、「作戦時における自衛隊の渉外業務」の「主眼」として、第一に「地方諸機関および住民を密に作戦に協力させる」こと、第二に「地方諸機関および住民に作戦を妨害させない」ことをあげています。
同時期配布された陸上自衛隊の指揮・運用の教科書『野外令第二部』(五七年)では、「朝鮮戦争において、避難が交通をまひさせ、作戦を拘束妨害した…教訓に基づき、…交通路統制使用に関する統制を行うことが重要である」としています。
国民に軍事作戦の邪魔をさせない――この思想はいまも変わっていません。九九年十一月の日本戦略研究センターのシンポジウムで佐瀬昌盛防衛大学校教授(当時)は非常事態で重要なこととして、「善良なる市民が…路上をうろついたら、プロの集団が取るべき行動を取れなくなる」とのべました。
社会秩序という点はどうか。内閣府の担当者は「犯罪の予防、防止といった治安維持の要素が入ってくる」といいます。戦争遂行のための「治安維持」となれば戦争に反対したり、批判する言論・行動が規制の対象になるのは明らかです。
さらに、法案は「生産関連物資等の価格安定、配分その他の措置」を明記。産業統制や配給など国民生活全体を戦時体制下におくことまで想定しています。
経団連は九七年九月の提言で、「戦争等により、海外からの供給が継続的に途絶えてしまう有事の際の食糧危機」を想定したことがあります。この提言では、「食料だけでなく、飼料、石油等の供給も確保できなくなり、平時の生産体制が維持できなくなる」と指摘。「非常事態における土地利用計画や食料の供給体制・流通体制、備蓄体制など、総合的な危機管理体制を検討しておくこと」を求めました。
結局、戦争が一番大事、そのためには国民の権利制限もあたり前――戦争国家法案にはこの思想が貫かれています。法案では、この立場から包括的に「自由と権利」の「制限」を明記しています。その具体的内容は明らかにされないまま、「二年以内」に私権制限法が整備されることだけが決められるのです。
人権と自由、平和を守る意識を定着させてきた憲法に立った国づくりか、アメリカがおこなう戦争に協力する戦争国家体制づくりか――いま国民に問われています。(おわり)
(田中一郎、藤田健、山崎伸治記者が担当しました)